超生命体を追え! 幻に終わったヒ素細菌

超生命体を追え!  幻に終わったヒ素細菌

超生命体ラボとは、常識を超えた生命,すなわち” 超生命体” を追い求め,生物の驚異にせまる研究を紹介するコーナーである

「アメリカ航空宇宙局(NASA)が宇宙人を発見か?!」と話題になった研究成果を知っているだろうか。
NASAが突然、「地球外生命体に関する会見を開く」と多くの報道陣に向けて発表し、世の中を騒然とさせた。

すべての生物の共通ルールを破る

NASAが発表した内容は、猛毒のヒ素(As)を利用する微生物を地球上で見つけた、というものだった。
これは、生物界に共通の超重要ルールを破る、「あり得ない」生き物を見つけた、という意味だ。

生物の共通ルールとは、「生物の遺伝子情報はDNAで親から子に伝えられ、DNAは炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、リン(P)でできている」というものだ。
微生物から植物、動物にいたるまで、この共通ルールから外れた生物は未だ見つかっていない。
NASAの研究チームは、カリフォルニア州モノ湖にあるヒ素濃度の高い泥から微生物「GFAJ-1」を採取し、リンを含まない代わりにヒ素を含む培地で育てたところ、DNAにヒ素が取り込まれていると発表した。
ヒ素とリンは、元素周期表で上下に位置する「同族元素」であり、化学的性質が似ている。
そのため、リンではなくヒ素を取り込むことで生存する生物が独自に進化している可能性もあると考えられる。

研究者の反論

DNAの分子模式図。糖とリン酸がはしごのようにつながっている。NASAが発見した微生物は、このリン酸がヒ素に置き換わったというが……普通の生き物にとってヒ素は猛毒であり、利用するなんて考えられない。
そんな常識はずれな生き物がいるのか?と多くの科学者を刺激した。
そして、たくさんの追試実験が行われた結果、この発見を否定するデータが集まった。
NASAのデータに解釈の間違いがある、別の計測データではGFAJ-1のDNAにヒ素は含まれなかった、などの指摘が集められ、今ではヒ素細菌という超生命体は幻であったと考えられている。

ヒ素細菌という仮説は残念な結果に終わったが、地球上にはまだ私たちが知らない、常識を超えた生き物がいるかもしれない。
超生命体を探る研究は続いていくのだ。