電力インフラに知能を載せる
情報理工学部 知能情報学科 谷口忠大 准教授
現代社会最大のインフラ,電力。注目を集める自然エネルギーの活用と併せて,それを仲介する送電網にも新しい形が求められています。そこで,ITでリアルタイムに発電量や消費量を把握して効率よく送電する「スマートグリッド」というしくみに注目が集まっています。谷口先生は,電力の「地産地消」をキーワードに,「自律分散」型のスマートグリッドの実現を目指しています。
ローカルな電力網
多くの自然エネルギーによる発電と火力発電の大きな違い,それはその時間の発電量が「自然」に委ねられてしまうことです。季節や天候による影響が大きく,私たちが普段電気を使いたいと思うときに発電量が多いわけではありません。昼間,一般家庭でほとんど電力が消費されない一方で,太陽光発電はピークを迎えるため,余剰電力が生まれます。このあまった電力を売ろうとすると,電気は普段とは逆向きに電力網を伝わることになり,太陽光発電が大量導入されると既存電力網に支障をきたす可能性が問題視されています。
そこで地域内で互いに電力を直接売買することを前提とした送電網をつくり,さらに情報通信網と人工知能を活用することで電力の地産地消を図ろうとする研究が進んでいます。
市場原理を情報工学で活用する
消費者としては,電気料金が高い時には消費をなるべく控えたい,より安く買うことができる相手から買いたいと考えることは自然です。先生らが進めるi-Rene(アイリーン)プロジェクトでは,限られた地域の中で,このような市場原理に従った電力の売買を行うことを実現しようとしています。そこで,たくさんの家庭や事業所のスマートメーターに人工知能を設置し,それぞれが互いの情報を共有しながら,電力量を制御させるしくみを研究しています。スマートメーターとは消費電力量,発電量,蓄電量を常時モニタリングして,また管理する装置のことです。たとえば,その人工知能は,消費に関しては価格の高いときには消費量を抑えるように働き,発電に関しては価格の高いときに売買を増やします。個々に「分散」して設置された人工知能が所有者に最大の利潤をもたらすように電力の売買を「自律」して行うのです。
また,発電量は日照時間などその地域の環境に左右され,消費量も年齢別の人口分布などその地域の住民構成によって変動します。ひとつの電力取引システムがすべての地域に当てはまるわけではないため,最適なモデルを実現するために学習し,進化する人工知能の実現を目指しています。
自分だからできる世の中の変え方
私たちはなぜコミュニケーションをするのかということに興味を持った先生。ロボットを通して,人間がどのように発達するのか,そのしくみを理解しようと研究を進めています。同時に先生は,「ロボットが社会の中に入るのは,まだ先。今の知能情報技術も,思わぬところで社会の役に立つ」と語ります。その思いからi-Reneプロジェクトで自分の得意分野を活かすことをはじめました。世の中が変わり続ける中,変わらない市場原理を「技術」として利用し,新しい変化が私たちの身の回りではじまっています。