おはよう、春だよ目を覚まそう
いよいよ春がやってきましたね。
日差しが暖かくなり、木々が芽吹くこの季節、わくわくして外に飛び出すのは私たちだけではありません。
カエルや、リスやネズミたち、多くの動物たちも活動を始めます。
おや、私たちにもおなじみの、ある動物も冬の長い眠りから目を覚まし始めたようですよ。
クマは冬眠する?しない?
春に多くの生き物を見かけるようになるのは、長い冬の間巣にこもり春を待つ「冬眠」から多くの動物たちが目覚めるから。
日本の里山に多くいる「クマ」も冬の間活動を止めることで有名です。
絵本や童謡にも、クマの冬眠の様子がよく描かれていますね。
しかし、研究者の間で、クマは「冬眠しない」といわれていたことを、知っていましたか?「冬眠」ではなく、巣にこもって寝て過ごす「冬ごもり」だというのです。「冬眠」 する動物のからだには必ず、生きていくために必要な「代謝」を抑える現象が伴います。
代謝とは、栄養分と酸素でエネルギーをつくり、そのエネルギーで活動に必要なものを合成することです。
体温である37〜38°Cで一番活発になるといわれています。
「冬眠」する代表的な動物にシマリスがあげられますが、冬の間シマリスの体温は10°C近くにまで低下し、代謝を抑えることが知られています。
「冬眠」は、動物たちが体温を下げ、自ら代謝を抑えるために起こる、冬を省エネモードで生きるしくみなのです。
しかし、クマは冬の間体温があまり下がらないので、代謝を抑えられていないのではないかといわれてきました。
「寝て春を待つ」クマのからだは?
クマが冬を寝て越す行動は、「冬眠」なのか。
つまり、クマには冬の間代謝が抑えられる現象があるのか。
その疑問に答えるため、アメリカアラスカ州の研究者が野生のクマ4頭を飼育し、冬の間のクマの代謝についてからだが消費する酸素の量を測って詳しく調べました。
哺ほ乳類では、体温が10°C低下すると代謝が落ち、取り込む酸素の量が半分になるといわれています。
これに対して、クマは体温が5°C低下するだけで75%も酸素の消費量が抑えられ、心拍数が1分間あたり約55回から9回まで減少することがわかりました。
さらに春になり、クマの体温が徐々に戻ってくると、その1か月遅れで、心拍数や酸素の消費量が戻ることがわかりました。
体温で代謝が抑えられているなら、体温が戻るのと同時に代謝も戻るはずです。
このことから、クマは体温を下げることとは別の、代謝を抑えるしくみを持ち、「冬眠する」ということがわかったのです。
「冬眠研究」、意外なところで役に立つかも
今回の発見は、大型動物が冬眠することを明らかにした初めての研究でもありました。
冬眠の研究は、動物たちの生態を知るだけでなく、脳の手術のときなどに用いられる「低体温療法」という技術の改善に応用できないかと注目されています。
けがをすると、傷を負った細胞や組織の物質による化学反応により傷が悪化することがあります。
「低体温療法」は、傷がさらにひどくならないよう、低温にして化学反応の速度を遅くする方法です。さらに、細胞の代謝自体を抑えることができれば、傷が広がらないことが期待できます。
多くの人からクマは長い間「冬眠する動物」だと思われてきましたが、本当に冬眠することが証明されたのは、じつはたった2年前、2011年のことだったのです。 もしかすると、みなさんのまわりにも、わかっていそうでわかっていないことが潜んでいるかもしれません。
さあ、発見を求めて、暖かな陽ひの下にくり出しましょう! (文・土井恵子)