専門性はどこへでも行けるパスポート
首都大学東京大学院 理学研究科・都市環境科学研究科(分子応用化学域) 海外インターンシップ体験レポート
2012年11月、サンフランシスコ・シリコンバレーに、緊張感を漲らせた集団が降り立った。彼らは首都大学東京の理工系大学生・大学院生8名。
これから6泊8日の行程で、シリコンバレーの企業、大学、研究所を訪問する。彼らには、そこにいる先人たちに自らのアイデアをぶつけ、評価してもらうという刺激的なミッションが待っていた。
チャレンジの街、シリコンバレーが立ちはだかる
会議室の前方ではスクリーンを背に学生が懸命にプレゼンをする。
しかしオーディエンスはパソコンを見つめ、メールの返信に忙しい。
これは、そのミッション中実際に起こったことだ。
オーディエンスから事前に渡された、
「Webサービス/ソフトウェアに対して新しいアイデアを求む」
という課題に対して、“ありがち”なアイデアを学生が発表したときだ。
ご存知のように、シリコンバレーはApple、Google、Facebookなど
次々とスター企業を生んでいる、テクノロジービジネスの聖地。
世界中からチャンスを求めて人々が集まり、成功に向かって試行錯誤、
暗中模索する。
そんな土地柄だからこそ、たとえ荒削りだったとしても
“新しい”アイデアは尊重される。
しかし陳腐な、思いのこもっていないアイデアに、この土地は見向きもしない。
チャレンジに没頭する1週間
学生たちには、毎日のように、誰かにアイデアをプレゼンテーションする
機会が用意されている。
相手は、企業の社長や研究者、大学教授、はたまた投資家など、
その道のプロフェッショナルたちだ。
事前に提示された課題に対し、個人またはグループでこの課題に挑む。
研究室生活ではあまり使うことのない思考回路をフル回転させてアイデアを生み、
それを当然英語で発表する。
アイデア次第では前述のように今まで経験したことのない厳しい対応や、質問を受けることになる。
成功・失敗、喜び・戸惑い、希望・落胆。
全てを一日の終わりに振り返り、また次の日には新しいチャレンジへと向かう。
このチャレンジの繰り返しは、シリコンバレーの日常に他ならない。
イノベーションのメッカで、アイデアを具現化する方法に近道はないことを実感する。
突撃、スタンフォード大学
プログラムの山場はスタンフォード大学訪問だ。
学生は、自分が会いたい教授や訪問したい研究室にアポイントを取る。
ある学生は、自分の研究内容についてディスカッションをするために。
また別の学生は、読んだ論文の内容について直接質問するために。
「修士の学生からのメールなんて相手にされないと思っていたけれど、
丁寧に返信してくれことに驚いた」と語る参加者も多く、学生たちは目的とする研究室へと向かった。
参加者の1人、修士1年生の江口大地さんはMcGehee教授にアポイントのお願いをしたところ、
「僕は予定が入っているけど、研究室のポスドクにセミナーをしてくれないか」と逆に提案された。
訪問当日は、30分のセミナーとそれに続いて研究のディスカッションを行った。
質問が活発に出るだけでなく、途中でポスドク同士での議論も始まり、なかなか止まらない。
「自分たちが知りたいと思うことを、納得のいくまで徹底的に議論する。
シンプルだけど、すごい業績を出し続ける秘密を知った気がします」と江口さんはその体験を語った
さらなる専門性を求め
6泊8日の行程で訪問したのは、Evernote(新社屋に引っ越したばかり!)、FX Palo Alto研究所、
Fujitsu Management Services of America、
300ものベンチャー企業が入居するPlug and Play Technology Center、スタンフォード大学、
カリフォルニア大学バークレー校などなど。
本プログラムを通して30人以上の「チャレンジし続ける」人と出会った。
笑顔になれた場所も、泣くほど悔しい思いをした場所もあった。
その中で、自分を高める方向性として見えたものがある。
それが、専門性を高めるということだ。
「どこへ行っても、研究室で毎日着実に積み上げた専門性が、一番通用した」と、参加者の1人は語った。
英語のスキルより、プレゼンテーションのスキルより、
自分自身の専門性を高めることが世界で戦うために必要だと感じたようだ。
専門的な知識やアイデアを自分が提供できれば、それを元にコミュニケーションが広がっていく。
専門性をもとに多くの人とつながると、それがイノベーションにつながっていく。
シリコンバレーは8人の学生の心に火をつけ、イノベーションの種を撒いた。