描いたら、 かたちが 見えてくる 『生き物の描き方―自然観察の技法』
今はデジタルカメラが普及して、携帯電話にもついています。
何か気になったもの、心に留まったものがあれば、「パシャッ」とボタンをひとつ押すだけで、見たままを、きれいに正確に記録できるようになりました。 それでも、スケッチという行為はなくなりませんでした。
それにはきっと、意味があるのでしょう。
著者は、この本の中で書いています。 森の中を歩くと、さまざまな生き物が目に入ってくるだろう。
そのすべてを見ることはできない。
たとえば目の前の虫の行動にくぎづけになれば、その先の花にきている虫のことは無視せざるをえない。 見えているけど、見てはいない。
毎日見ているはずのものでも、じっくり観察していざその姿を描こうとすると、普段は気にしない細かいところに目が留まるはずです。
自分が「見た」ことしか描けないし、特に生き物の場合は、細部まで見れば見るほど際限がありません。 だから、著者は言います。
スケッチで大事なことは、描きたいものを描くこと、描きたいところから描き始めること。
そして、何をどこまで描くか(どれくらい省略するか)、どんなふうに描くか(どんな処理をするか)は自分で決めること。
絵は人が描くものだから、その人の気持ちが入ります。
客観的にありのままを残す写真と大きく違う楽しさは、ここにあるのかもしれません。 本書では、植物や昆虫を例に、著者がどのように生き物のスケッチを身につけてきたかが紹介されています。
「絵を描くのが苦手でも大丈夫」。
そんな著者の言葉に背中を押されて、生き物を描く楽しさを味わいたくなる一冊です。