まばたきにかくされた脳の秘密 中野 珠実
私たちはまばたきを1分間に15~20回行っており、そのほとんどが無意識の行為だ。
大阪大学で脳の研究をしている中野珠実さんは、私たちが無意識のまばたきをいつ行っているかに注目し、まばたきと脳の働きの関係を新たに突き止めた。
これを読めば、今日からきっと、自分がいつまばたきをしているのか気になってしまうようになるだろう。
まばたきの意外な性質
本を読んでいるとき、友だちとおしゃべりをしているとき、自分はいつまばたきをしているのだろう?
思い出せないことが多いが、じつは本を読んでいるとき、句読点のところでまばたきをしているといわれている。
あなたなら、なぜこのような現象が起こると考えるだろうか。
中野さんは、情報の区切りでまばたきしているのではないかと考えた。
そこで、映像を見ているときも同じことが起こるのか、実験協力者に動作や場面の区切りがわかりやすい無声映画を見せ、まばたきのタイミングを調べた。
すると、動作の始まりや終わりなどの、意味の切れるところでみな揃ってまばたきを行っていたのである。
まばたきと注意の解除
このとき、脳の中では何が起こっているのだろう。
映像を見ているときの脳の状態を調べた。
脳の活動が増えると必要な酸素量が増え、血流量が増える。
fMRIという機械を使うと、血流量の変化で脳の活動が活発な部分を見ることができるのだ。
脳の中には、何かに注意を向けているときに働く部位と、安静にしているときに働く部位がある。
映像を見ているとき、脳の中では何かに注意を向けるときに働く部位が活発になる。
しかし、調べてみるとまばたきをした瞬間のみ、安静にしているときに働く部位が活発になっていたのである。
しかも、この現象は意識的に行うまばたきでは起きず、無意識のときだけ起こることもわかってきた。
私たちが無意識にまばたきをするとき、脳内で何かに注目している状態が解除されている可能性があるのだ。
人間のからだにかくされた好奇心のタネ まばたきが注意を解除させるのか、解除するときにまばたきが起こるのかはまだわからない。
これらがどういう関係で制御されているのか、脳内のしくみを明らかにしたいと中野さんは言う。
「自分とは何か、人間とは何かを理解したい」という想いを原動力に、研究を行っている中野さん。
人間を完全に理解するには道は長いが、そこにはまだたくさんの好奇心のタネが隠れていそうだ。 (文・高橋裕佳)
中野 珠実(なかの たまみ)
プロフィール
2009 年,東京大学大学院教育学研究科を修了。 博士(教育学)。2010 年より順天堂大学 講師,助教を歴任。2012 年 より現職。大学生の頃からま ばたきの研究を行っている。