鳥はどこから来た?
空を飛び回る鳥の祖先はどこから来たのでしょう?「鳥の祖先は恐竜」という話を聞いたことのある人もいると思います。実はこの答えを巡って、研究者の間では150年もの論争があったんだそうです。近年やっとその論争に決着がつき、名実ともに鳥は恐竜の子孫だったことがはっきりしました。鳥と恐竜を結びつけた新しい事実とは、いったいなんだったのでしょうか?
始祖鳥は鳥と恐竜の中間生物?
するどい牙、手足の鉤爪、骨の通った長い尾、そして、全身を覆う羽毛の跡。150年前に発掘された化石は恐竜の骨格に羽の生えた奇妙なものでした。この不思議な生物は「鳥に進化している最中の恐竜である」と考えられ、最古の鳥「始祖鳥」と名付けられました。今では始祖鳥は鳥の直接の祖先ではないことがわかっていますが、これをきっかけに「鳥の祖先は恐竜である」という仮説が生まれました。
指を巡る150年の論争
ところが、鳥の祖先が恐竜であるとすると、どうしても説明できないある矛盾がありました。それが指の問題です。
鳥も恐竜も前肢には3本の指を持っています。恐竜の化石を調べてみると、親指、人差し指、中指があります。最初は5本の指を持っていたのが、徐々に薬指と小指が退化して、最終的に3本になった、と考えられています。ところが、鳥の3本の指はどの教科書を見ても人差し指、中指、薬指と書かれています。鳥の胎児の最も外側の指ができる位置は、ヒトやマウスのような5本指の生き物で薬指ができる位置と一致するため、人差し指、中指、薬指だというのです。
鳥と恐竜が近縁関係にあるならば、同じように体が作られていると考えるのが普通です。しかし、恐竜で退化したはずの薬指が鳥にはあるというこの指の違いが説明できませんでした。そこで一部の学者は「鳥と恐竜が似ているのは偶然であって、鳥の祖先は恐竜とは別の生物だ」として、「鳥の祖先は恐竜」派の学者と対立していました。両者とも一歩も譲らなかった論争は150年続きました。
鳥の指はやっぱり恐竜のものだった
近年、東北大の田村宏治先生らは、鳥の胎児の指の作られ方を詳細に調べ直しました。
5本指の生き物では、手のひらの外側にある特別な領域ZPAが作られ、ここから生えてくる指が薬指と小指になります。田村先生はこのZPA領域を着色して鳥の指の作られ方を観察しました。すると、最も外側にある指は、はじめはこのZPA領域の中にありました。単純に考えればこの指は薬指か小指になるはずです。しかし、さらに突き詰めて観察すると、驚いたことに、この指は未熟なうちにこの領域を出て、中指の場所に移動してから本格的に成長することがわかったのです。つまり、薬指か小指だと信じられていた指は、実は中指として作られていたということです。これまで教科書にあったのは、このニワトリの移動を見落とした記載でした。こんな単純な、しかし気付きづらい現象の見落としが、150年もの論争を引き起こしたのでした。
教科書にも載っているような事実の見直しによって、鳥の祖先は恐竜だということが確かになりました。恐竜は完全に地球上から滅んでしまったのではなく、鳥として今も生きているんですね。これから、鳥を研究することで、その背後にある恐竜のことを理解する研究が始まるかもしれません。(相山好美)