迫真に迫る感動を生み出せ!

迫真に迫る感動を生み出せ!

早稲田大学 先進理工学部 森島 繁生 教授

早稲田大学先進理工学部応用物理学科 教授。1987年、東京大学大学院電子工学専門課程修了。工学博士。2004 年より現職。コンピュータグラフィックス、コンピュータビジョン、音声情報処理の研究をしている。

早稲田大学の森島繁生さんは人間の表情や動作を研究対象として捉え、データベースから本人そっくりの表情を合成する顔モデリング技術や人物の動作や液体、布をシミュレーションする技術などを研究している。2005年の愛・地球博で、カメラで撮影した観客自身の顔を映画に登場させるCG映画を製作し、話題になった。大事にしているのは、迫真に迫る感動を呼ぶエンターテイメントに貢献すること。そんな森島さんから見た未来のエンターテイメントとは?

自分発でつくるこれからのエンターテイメント

高度なグラフィックスや3D映像を駆使したゲームや映画、その先にあるエンターテイメントの未来を考える際に森島さんが注目しているのは、「自らエンターテイメントをつくる」楽しみだ。ニコニコ動画、初音ミク、アイドルマスターなど、すでに、ユーザーが自分で作品をつくって共有できるコンテンツ環境は世の中に多数存在し、絶大な支持を受けている。「気軽に使えてプロっぽい作品ができるから、ユーザーの想像力をかきたてる」と森島さんが話すように、自分なりに解釈した作品を作って、共有したいというモチベーションは、徐々に高まっているように見える。それに伴い、技術者はプロに使ってもらうための高度な技術から、素人に使ってもらうためのシンプルでわかりやすい技術を考える必要がある。「いわば3つ星レストランのレシピを家庭料理にアレンジするようなもの。これからは、情報量を少なくして、シンプルであっても自分が参加した、など自分の経験と重ね合せられる体験が求められるようになると思います」。

計算できない感動を求めて

誰もが気軽に高度な技術を使える環境を整えて、エンターテイメントの創造に参加できるようになれば、そこから話題になるコンテンツがまた生まれてくる。しかし、どんなに技術が進歩しても、誰もが作品を創造できるようになっても、プロの仕事はなくならない、と森島さんは見ている。カラオケのように自分で歌が歌えるようになっても、プロの歌声の人気は衰えないように、ある程度計算の技術が進歩しても、計算では表現できない部分がより際立って行く、と考える。「技術を高めるということは、人間の本物の能力そのものを際立たせていくプロセスなのかもしれない」。森島さんはその計算できない人間の能力に興味があると言う。森島さんが今手掛けているのが、「計算できない部分」のノウハウをいかに科学するかという研究だ。N次創作という、あるコンテンツを何人もの人が自分なりにアレンジして、動画サイトに投稿した作品へのコメントの解析や、映像・音楽解析を通して、盛り上がっている部分を検出して動画を要約したり、評判の良い作品に対して、光の使い方、色の使い方、登場人物の関節の動かし方なども解析し、人々の感動を集める秘訣に法則がないかを探っているのだ。良い作品があれば人気の秘密を解析し、その法則を他のキャラクターに応用したり、別の作品に活かすことができるかもしれない。こうして、エンターテイメントの質を徐々に高めていけるだろう。

スリリングに研究しよう

森島さんの今のもうひとつの興味は、「いかに迫真に迫る感動を技術で生み出すか」。たとえば人が自然に触れたときの癒し、山に登ったときの爽快感、カーレースで車体が壁にぶつかるかもしれないという緊張感、などはまだなかなかゲームや映画で表現できていない。研究者も、いい研究をするためには、「自分が体を動かして自ら感動しなくてはならない」と森島さんは言葉を強くする。「ここまでやったら満足」という感覚をあらかじめ持ってしまっていては、「自分はここまで」という線を
引きかねない。危険な道にもときには躊躇なく踏み込み、スリルも爽快感も全て自分自身の感性で味わってこそ、人を感動させられる研究ができる、と考えている。 (文 環野真理子)