情熱を持って研究に挑戦し続ける―理研の研究者に聞く、ポスドク最新事情― 岩井優和

情熱を持って研究に挑戦し続ける―理研の研究者に聞く、ポスドク最新事情― 岩井優和

理化学研究所 脳科学総合研究センター 岩井優和(いわいまさかず)さん 博士(生命科学)

2009 年3月、北海道大学大学院生命科学院博士課程修了後、同年4月より現職。

理化学研究所 脳科学総合研究センター 永田健一(ながたけんいち)さん 博士(医学)

大阪市立大学大学院医学研究科修了。専門は神経科学。

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研究室選びから学位取得、その後のキャリアまで。研究キャリアには新たな発見をする感動があり、良い師との出会いがあり、ときには乗り越えなければならない壁がある。転機となるとき、どのように考えて自分の決断をしていったらいいのだろうか。理化学研究所に博士号取得後の最初のポストを得て、研究者の道を歩き始めた2人のポスドクに、アカデミックキャリアに残るために考えるべきことを伺った。

ポストにつくまでの2つの道

―理研に赴任して3年目の岩井さんと今年4月に赴任したばかりの永田さん。2人は何をきっかけに理研のポスドクになったのだろうか?

岩井 博士課程では北海道大学の大学院で光合成の研究をしていました。植物細胞のタンパク質から光エネルギーを制御する仕組みを探って
いたのです。学位取得後、試験管の中で起こる現象が実際の植物の中でも見られるのかを確かめたいと思い、イメージングで植物細胞の中の
動 態を可視化できるところを探していました。理研にイメージングで細胞膜輸送や細胞小器官内を扱う中野主任研究員がいらっしゃることを知り、先生のラボでは 光合成をテーマにしている人はいなかったのですが頼みこんで受け入れていただきました。学振をはじめ、公募がかかっていて受けられるところは全部受けまし たね。基礎科学特別研究員※1というのは挑戦的な新しいテーマを手掛けることを奨励するポストで、学振※2は受け入れ先の研究室にすでにあるテーマに沿っ ていないと難しいポストだと聞くので、自分のやりたいことがちょうど理研の基準とマッチしていたのだと思います。

永田 私はまだ働 きがわかっていないあるタンパク質分解酵素に着目しています。学振に応募するにあたって次にどこで研究をしたらいいかボスとディスカッションを繰り返しま した。今までは組織学的なアプローチで研究をしていたのですが、機能の解明を実現させるために生化学的なアプローチを試してみたいと思うようになりまし た。自分の興味の方向性が見えてきたとき、ボスがすぐに知人に電話をしてくれて、受け入れの承諾を得たのです。

―それぞれのテーマや方向性に合ったポストが、次のチャンスを引き寄せた。彼らが最初に研究者になる、と決めたきっかけは何だったのだろうか。

岩 井 学部のときはアメリカの大学に留学していたのですが、そこで受けた植物の先生の授業に感動したのです。授業が毎回面白くて研究するなら植物が良い、と 思いました。そのときから研究者になろうと意識していましたね。博士課程に進学するときには光合成をテーマに研究したいと思っていました。アメリカで研究 を続けたいという気持ちもありましたが、学費の面もありましたし、そのときはまだ光合成の研究をするといってもアメリカの中でどんな研究室を選べばいいか 良くわからなかったので、まずは日本で学位を取得しようと思いました。

永田 私が意識したのは大学2年生のときですね。「脳の中の 幽霊」というラマチャンドランの本を読んだことがきっかけです。脳科学の面白さに目覚め、その本を紹介していただいた先生の研究室で学部生のときから動物 の脳波を見ていました。実験する中で脳科学への興味がどんどん増していきましたね。でも、「自分は本当に研究者としてキャリアを築いていけるのか」「自分 が今日やったことが何かの役に立つのか」と、進路に迷う時期もありました。今思えば、仕事として研究する道を選ぶ覚悟ができなかったのです。在学中は、社 会とのつながりを求めてサイエンスコミュニケーション活動に参加しました。博士号取得後には大阪大学のCLIC※3を活用し、3ヶ月間の企業経験を積みま した。完全に研究から離れることで研究との関わりを考え直せましたね。そんな時期に卒業時に申請していた研究費が採択されていることがわかり、これが研究 への自信につながりました。「不
安だからやりたくない」という考えから、「一度きりの人生なら自分が本当にやりたいことに仕事として挑戦してみたい」という考えに変わっていったのです。

情熱を持って動いた者が、アカデミアを制す

―ずっと研究者になる、と決めて進んだ岩井さん。一度は迷ったものの、やはりアカデミックキャリアを歩むことに決めた永田さん。異なる道をたどり、自らのキャリアをアカデミックの世界に定めた。この世界に進むために大事だと思っていることは何だろうか。

岩井 情熱ですね。いろいろ考えて不安に思っても、残りたいという気持ちがあるんだったら何かしら情熱は持っているのだと思うので、あとは信じて動くことですね。情熱を持たせてもらえるような恩師に出会えることも大事だと思います。
永田 私もそう思います。あとはいかに自分が何をやりたいのかを明確にしていけることだと思います。
岩井 アカデミアに残るためには、世界中に何かしら公募はあるはずなのでそれに応募し続ければいい。若手は常に次のアプローチをし続ける
ことだと思います。

―ポスドクとして研究者のスタートを切った2人。これからの自分のキャリアをどう考えているのだろうか?

岩 井 私は3年目を迎え、次がどうなるのかは全くわからないのですが、自分のやりたいテーマができる研究室を見つけられたら一番うれしいですね。どちらかと 言うと理研のように面白いテーマであれば新しい考えでも受け入れられる風土のある研究機関が向いているのではないかなと思っているのですが、半年後にこの まま次のポストが見つからなかったらとにかく公募のかかっているところへ応募するかもしれない。若いうちは次のポストを見つけるまで柔軟に対応したいです ね。

永田 私も3年後にどうなるか、というのはまだわからないですが、できれば海外の研究室に応募したい、と考えています。異なる環境で自分が通用するのか、挑戦してみたい、という気持ちがありますね。

[用語補足]
※1 基礎科学特別研究員…創造性、独創性に富んだ若手研究者が、自らが理研において実施を希望する研究課題と理研の研究領域を勘案して
設定した研究課題について、自由な発想で主体的に研究できる場を、理研において提供する制度

※2 日本学術振興会 特別研究員(学振)…トップクラスの優れた若手研究者に対して、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、研究者の養成・確保を図る制度

※3 CLIC…大阪大学が採択を受けている、イノベーション創出若手研究人材養成プログラム。企業での長期インターンシップとキャリアデザインプログラムへの参加を通して、博士号取得者のキャリアパス多様化を促進する制度