古きを訪ね、新しきをつくる漢方薬 慶應義塾大学木内文之

天然資源を薬にする

薬として使われる資源を「生薬」といい、有名な「がまの油」をはじめ、動物や微生物がつくる成分も含まれます。
これまで生薬の中でも最も多く用いられてきた資源は植物です。
これらの薬になる資源を探し出したり、成分を見つけ出したりすることが、薬をつくる上で大事になります。
生薬の研究でもう一つ大事なのが、漢方がどうして効くかを調べる研究です。
漢方は、化学合成で薬がつくられる以前から伝えられてきた薬で、生薬がいくつか組み合わさっています。
しかし、様々な生薬の作用が複雑に組み合わさって効果を示すので、漢方がなぜ効くのかを証明することは難しかったのです。

漢方から人に効く成分を見つける

慶應義塾大学の天然資源学研究室の木内文之さんが研究しているのは、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)という漢方の1つ。
オウレン、オウゴン、オウバク、サンシシという4種類の生薬からできていて、のぼせやほてりといった、体の炎症に効くと言われています。
この4種類の中で最も強く作用しているものを探すために、3種類だけ、2種類だけ、など、様々な組み合わせをつくり、炎症を起こした細胞にひとつずつ作用させてみます。
一番強く炎症を抑えた組み合わせの中から、薬の成分を探し出すのです。
こんなパズルのような研究で漢方の中で薬となる成分を見つけることができれば、その成分が多くなるよう品種改良した生薬を栽培することができるかもしれません。
それらの成分を化学合成して、少量ずつ混ぜることで、生薬を使わなくても漢方薬のような効き目を持つ薬ができるかもしれません。漢方の成分を使って新しい薬をつくる、これが木内さんの夢です。

漢方から未来の薬を

インフルエンザやメタボリックシンドロームなど、これから注目される病気にも、漢方は使われています。
まだまだ未知の部分の多い漢方、その仕組みが解明されれば、新しい薬が世の中に出てくる日は近いかもしれません。
古くて新しい、それが漢方の研究なのです。(文・長野美保)

取材協力:慶應義塾大学 薬学部 天然資源学研究室 教授 木内 文之さん