物理学で、世界を形づくる「大きな原理」を探る 和田浩史

物理学で、世界を形づくる「大きな原理」を探る 和田浩史
理工学部 物理科学科 和田浩史 准教授

人間が,太古より憧れてやまない「翼」。鳥とコウモリは,まったく違う進化の過程を経て,どちらも翼を獲得しています。ともに「飛ぶ」ことを目指して,構造学的・力学的に最適な形へと進化した結果なのです。このように,生きものの形や構造にはすべて理由があり,物理学の視点でとらえることで,その本当の意味が見えてきます。

和田先生

再現することで,しくみを理解する

多くの微生物は「べん毛」を使って動きます。しかし,べん毛を持たずに素早く動きまわる微生物もいます。ねじったヒモのような形をした「スピロプラズマ」と呼ばれる細菌がその一例です。スピロプラズマの運動メカニズムは長い間謎に包まれたままでしたが,2005年,そのからだには右巻きのらせんと左巻きのらせんが共存し,切り替えポイントを移動させながら進んでいくという奇妙な動き方が顕微鏡で観察されました。

「生物の動きや形も,物理法則の上に成り立っています」。和田先生は,この微生物がどのように推進力を生み出すのか,連続体力学という物理学の視点から解明に取り組みました。そして,時には数週間にもわたる計算と試行錯誤を繰り返しながら,微生物のからだを「弾性体(伸び縮みできる棒のようなもの)」として数式で表現し,シミュレーションでその動きを再現することに成功しました。

数式から見えてきた,エレガントな形

スピロプラズマの移動速度をシミュレーションしたところ,らせん角度が35°のときに最速になるという結果が得られました。これは,実際に顕微鏡で観察された結果と一致していました。さらに,切り替えポイントを中心に,逆向きのらせんが共存するにもかかわらず,目的の方向に移動できる秘密もみえてきました。「何事も,踏み込んで深く考えていけば,世界の見え方に奥行きが出てきます。それが研究の醍醐味です」。

和田先生

世界には,知らないことがあふれている

「高校までは課題を解くための勉強がメインですが,大学というアカデミアは『自分が知らないことすら知らなかった世界』に出会う知的生成の場です」。そう語る先生は,机の上にあるゴムでできた棒状のオブジェを手に取ると,両端をねじってクルッとループをつくります。「日常的によく見かける,座屈<ざくつ>と呼ばれる現象ですが,なぜこのような動きや変形が生じるのか,本質から解き明かそうとすると実に奥深いんです」と,好奇心にあふれた瞳でループを見つめます。

私たちが五感で認識するこの「マクロな世界」の多様性は,どのように生み出されるのか。「常識や分野の壁にはとらわれず,物理学の視点で自然現象を眺め,その背後に潜<ひそ>む豊かで普遍的なメカニズムをひとつひとつ描いていきたい」と先生は語ります。