宇宙(そら)からの暗号を解読し、人類のロマンに挑む 久保幸弘
理工学部 電気電子工学科 久保幸弘 准教授
私たちが携帯電話の地図アプリやカーナビなどで使用する,位置情報の取得に欠かせないGPS衛星。地上から約2万kmの高度にある6つの軌道に,それぞれ4機ずつ飛んでいます。宇宙を活用した人類の偉業は,私たちの生活を便利にしましたが,まだまだ課題と可能性を秘めています。
衛星からの距離を測る
遙か上空にあるGPS衛星を使って,どうやって私たちは自分の位置を知るのでしょうか。衛星からの電気信号は,電波にのって携帯電話などの受信機に到達し,計算処理が行われています。その送られる信号の中に,衛星自身の位置情報と送信時刻が含まれています。衛星と受信機が遠く離れているため,電波の到達には時間がかかり,当然,受信時刻はわずかですが送信時刻より後になります。この時間の差と電波の速度とを掛けることで,衛星と受信機の距離が計算できます。衛星自身の位置情報とこの計算された距離を使い,受信機の位置を探しているのです。
誤差を打ち消すロジックをつくる
通信に使う電波の速度が速いため,もし時刻情報に0.001秒の間違いがあるだけで,距離にして300kmもの誤差が生まれます。つまり位置測位には,かなりの精度が求められるわけですが,実際には衛星の位置情報や衛星と受信機の時刻が間違っていたりします。さらには,電離層による電波の屈折も誤差につながります。そこで,それらを受信機側の計算処理で解決させるための研究に久保先生は取り組んでいます。
先生は,[1] 大気の上層部にある電離層や大気中の水蒸気による影響,[2] 衛星自身の位置情報の誤差,[3] 電波が障害物で遮断されるために起こるデータ欠損,[4] 受信機の移動情報,の4つの要素に対して,論理的にその影響を考えます。その論理的な影響予測から,信号を修復する数式モデルを構築し,受信機側で計算させるのです。現在,私たちが使用する一般的な受信機の精度は約10mですが,先生はすでに20~40cmの精度まで向上させることに成功しました。
科学技術が生んだ星を使う
「昔,人は太陽や星を観測し,自分がいる場所を導き出していました。今は,その星を人がつくり出すことができるんです。だから,この研究にはロマンがあるんです」と語る先生。仮説立てた電離層からの影響回避のロジックが,当てはまることが何よりうれしいと感じながら,“人が生んだ星を使った測位”という壮大な計画に挑み続けています。