金属成形ができる3Dプリンタ、研究中。
東京農工大学大学院 工学研究院 笹原 弘之 教授
アメリカで始まったメイカーズムーブメントにより、今や3Dプリンタは工学系の研究者以外からも注目を集めている。現状、樹脂が主流のこの技術を金属でも活用できるようにするための研究が活発に行われている。
3Dプリンタの普及で高まる造形技術への注目
3次元造形技術の金属部材への適用に関して、現在の主流はレーザーを用いて金属粉末を溶かして固める粉末焼結法だ。しかしながら、使用できる金属材料に制限が多く、強度・密度の点に課題を抱えているため実用化には至っていない。一方で、近年では金属の接合技術である溶接を利用した造形技術の研究が進められており、航空機産業などで商業的に利用可能な技術として期待を集めている。
アーク放電による金属積層
そんな中で笹原教授が注目したのはアーク放電で金属を溶かして固める方法だ。送給装置から連続的に出された溶接ワイヤは、基板との間で発生するアーク放電とジュール発熱によって先端が溶融金属となる。その後表面張力により球状となった溶滴が基板に積層していくことで造形を行う。現在の加工精度は±0.5mm、高速切削と同程度の速度での造形ができるのだという。さらに、マシニングセンタの主軸頭に溶接トーチを設置することで造形自体も可能となるため、中小企業でも導入できる点も特徴的だ。既存の3Dプリンタの加工精度が0.01mm~0.1mm程度であることを考えると、後工程で切削が必要という現在の課題を解決することができれば、一品ものの金属部品や金型製作分野に大きな変化をもたらすことができるはずだ。
すべては加工技術向上のために
現在、機械加工技術の分野では、微細加工や精密加工の研究が多く、笹原教授のように基盤技術としての加工技術を研究する研究者は減少傾向にある。そんな中で笹原教授の研究室では、中小企業との共同研究も積極的に行っている。発電用ガスタービンなどの難削材加工に適用可能な新しい研削技術について中小企業との共同研究を進め、共同研究先の社長は今春に博士号の学位を無事取得したのだという。ビジネスのグローバル化やアジア諸国の台頭により、日本のモノづくり中小企業の大学への期待は高まる一方だ。中小企業と連携した新技術の開発こそが世界でトップレベルである日本の加工技術のさらなる発展につながるのではないだろうか。