古くて新しい病気「結核」 – シリーズ:顧みられない熱帯病②
シリーズ第2回の今回は、2013年5月31日に開催された
IPABセミナーでの講演の中から、「結核」についてのお話を紹介します。
お話しくださったのは、北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンターの
鈴木定彦教授です。
日本はもっと、結核と向かい合うべき
1882年3月、ドイツの細菌学者ロベルト・コッホが初めて結核菌を見つけました。
それから130年以上経っていますが、結核という病気はなくなっていません。
2010年、1000人に1人以上の割合で結核にかかっている高蔓延国は、
旧ソ連、東南アジア、南アジア、アフリカの各国にわたります。
最も罹患率の高い国は、アフリカ南部に位置するスワジランドで、
10万人中1200人、100人に1人は結核にかかっている計算です。
日本も、先進国の中では対策が遅れているほうだといわれており、
WHOは、日本を結核中蔓延国としています。
罹患率は、10万人中19人。
軽視できない病気になってきたのです。
長い期間を要する治療、その間に……
結核の特徴は、乾いた咳と痰が出ること。
食欲がなくなって痩せていき、肺の機能が低下、最後には死に至る病気です。
咳の印象が強くて、肺の病気(肺結核)のイメージをもっている人が多いようですが
実はいろいろな臓器がかかります。
結核の診断には、レントゲンやツベルクリン反応が利用されていますが
痰の中に菌が含まれるかどうかを見るのが確実です。
しかし、初期の結核を見つけられる医師が少ないのが現状。
それは、結核菌の生育が遅く、判断するのに日数を必要としてしまうからなのです。
一般的な菌は、培地に植えてひと晩おけばコロニーができて
目で見て判断できるようになりますが、結核菌はそこまで育つのに
およそ30日もかかります。
結核の治療法には、抗結核剤を投与する内科的方法と、
手術によって菌に感染している部分を切除する外科的方法があります。
抗結核剤による治療の場合、4つの薬剤を一緒に使う「4剤併用療法」が一般的です。
結核菌の生育が遅く、治療に時間がかかるため、耐性菌が出やすいのですが
4つの薬剤を同時に使うことによって、耐性菌が出る率を下げることができます。
しかし、4剤併用療法が効かなくなてきている結核菌もあります。
それが「多剤耐性結核菌」。
この場合、「二次選択薬」として、7剤のうち3〜4剤を使用します。
結核の治療においては、この多剤耐性結核をなんとか解決することが
命題となっているのです。
WHOは、医師、看護師、保健師などが見ているところで患者さんに
薬を飲んでもらう「DOTS」という方法を推奨しています。
それには、以下のような理由があります。
東南アジアなどの結核患者は、貧困層の人が多くいます。
症状が重いはじめのうちは薬をちゃんと飲むのですが
咳が少なくなるなど、少しでも症状が軽くなると
薬を飲むのを途中で止め、ドラッグストアに売り払い、
生活費に宛ててしまうのだそうです。
しっかり治るまで薬を飲まなければ、耐性菌を生み出してしまいます。
ですから、医療関係者が、薬の服用を見届けるようにするのです。
4剤併用療法は、4剤を2か月間服用し、1〜2剤に切り替えて
さらに4か月間服用します。
これで治らなかったら、さらに2か月間の服用。
患者さんにとっては、長く苦しい治療期間になります。
しかし、これを乗り越えなければその患者さんも治らないうえに
耐性菌を生み出すことにつながり、結核という病気そのものを
地球上から消すのがより難しくなってしまうのです。
最初の4剤に耐性をもつ多剤耐性結核菌に加え、次の二次選択薬も効かない
「超多剤耐性菌」も出てきています。
現在、超多剤耐性菌が1例以上見つかっている国は、世界中で68か国にも上ります。
この事実は、「すぐにでも新しい薬が必要」ということを示しているのです。
超多剤耐性結核をコントロールしないと、昔の「不治の病」といわれていた頃の
結核に戻ってしまう、と指摘する論文も出ており、鈴木先生も
「実際あり得る」と見ています。
遺伝子解析で、早期発見・早期治療へ
鈴木先生は、ネパールで、結核菌を集めて遺伝子解析の研究をしています。
結核菌の薬剤耐性に関わる遺伝子はすでに見つかっており、
その変異を調べることにより、多剤耐性結核を早く見つけることができます。
鈴木先生は、その解析結果を用いて、結核菌を検出し、その種類をも
簡単に調べることができる方法の開発に取り組んでいます。
その方法が普及し、結核を早く見つけることができれば、
その分早く、きちんとした治療を開始できます。
そうすれば、耐性菌の出現を抑えることができるようになります。
地道な取り組みが、結核撲滅という大きな未来につながっていくのです。