【ノーベル賞】46 年後に「輝いた」GFP
最新の研究成果は、分野を問わず「論文」というかたちで初めて世の中に認められます。研究者は英語を読むことで、最先端科学の情報を手に入れているのです。研究者の大発見、その歴史的瞬間に立ち会ってみませんか?
2008年、下村脩さんがノーベル化学賞を受賞しました。
さかのぼること1962年、およ そ10,000匹ものクラゲを捕まえて、クラゲが光るしくみを調べていた下村さんは、「イクオリン」というタンパク質が海水中のカルシウムイオンと反応して青い光を発することに気がつきました。
しかし、クラゲ自体は緑に光るのに対して、ヌルヌルした部分から採取されたイクオリンは青にしか光りません。
下村さんは、緑色に光る原因は別のタンパク質が働いているに違いないと考えました。
その結果、GFP(GreenFluorescentProtein;緑色タンパク質)を発見したのです。
GFPは、イクオリンが発する青い光が当たることで緑色の光を発していました。
下村さんはGFPの発見者として偉大な功績をあげた人ですが、じつはGFPが発見された瞬間はとてもあいまいなものだったのです。
では、とても歴史的瞬間とは思えないその論文を読んでみましょう。
Extraction, Purification and Properties of Aequorin, a Bioluminescent Protein from the Luminous Hydromedusan, Aequorea
The luminous slime released by handling these organisms emits a distinctly bluish light, in contrast to the greenish light emanating from the small masses of intact photogenic cell masses.(中略) Although other explanations are possible, it is reasonable to suppose that the greenish quality results from a light-filtering effect and fluorescence of the green protein which is highly concentrated together with aequorin in the photogenic cells. (Journal of Cellular and Comparative Physiology, 1962, vol. 59-3, p 223-239)
Technical Words
Aequorea :オワンクラゲ luminescent, light-emitting: 発光する photogenic:発光性の
【解説】
この文章で書かれているgreenproteinが、後にGFPと改名されたものです。
下村さんが発表した論文の中で、GFPについて触れている部分はたったこれだけ。
後にGFPの応用方法が確立され、論文を発表した46年後にその利用可能性が評価され、ノーベル賞が贈られました。
現在では、GFP遺伝子を細胞に組み込むことで、青い光をマウスに当てるだけでがん細胞が緑色に光り、がんを観察できるようになりました。
今まで外から見えなかったがん細胞の動きがマウスを解 剖しなくても見えるようになったのです。
今、GFPは世界中の研究で使われるようになっています。
しかし、下村さんは決してノーベル賞を取るためにこの研究をしていたわけではありま せん。
下村さんはこう言います: “I don't do my research for application or any benefit. I just do my research to understand why jellyfish luminesce.”「私は応用や利益のために研究をしているわけではない。ただなぜクラゲが光るのかが知りたくて研究をした、それだけのことなのだ」。(文・吉野公貴)