やさしさを組み合わせ、ロボットのいる豊かな社会をつくる 李 周浩

やさしさを組み合わせ、ロボットのいる豊かな社会をつくる 李 周浩
情報理工学部 情報コミュニケーション学科 李周浩 教授

ひとりで静かに読書をしようと思えばやさしい照明が灯り,話題のドラマを見ようと椅子に座ればちょうどいい高さにテレビが動く。そんな,家中のものがあなたやそこにいる人を中心に動いてくれる空間が,実現されようとしています。

李先生

壁面を動くロボットがあらゆるものを運ぶ

部屋の中には多くの家具・家電がありますが,どれも人が配置を調整するのが普通です。しかし,「家具が勝手に動いてくれたら便利」と考えた李先生は,大好きなロボットで実現しようと思いました。家具を運べるほどの大きなロボットが床の上にあるとじゃまですが,そこで先生が目を付けたのは壁や天井でした。テレビや照明などを載せて,壁や天井を移動するロボット「MoMo(Mobile Module)」を開発したのです。さらに,カメラもMoMoに載せることで,さまざまな場所から常にあなたがどこにいて,何をしようとしているのか認識し,家具や家電を最適に配置できるように考えました。

あなたより,あなたにくわしい空間

先生が実現したいのは,ただものを動かすロボットではありません。まるでそこに,すごく気の利く執事がいるような知能化空間を実現したいのです。服装から個人を特定することはもちろん,本を手に取る動きを察知すれば,すっと手元を明るくします。ときには顔色を見て,体調に合った照明の明るさや部屋の温度を調節してくれるかもしれません。

知能化空間は,自動記録された過去の生活記録から,多くのことを学んでいきます。特に人が無意識に取っている行動,たとえばテレビを見るときのちょうどいい距離や,パソコンを使うときの使いやすいモニタの角度などは,自身ではなかなか数値化することができません。そこで,椅子やパソコンといった「もの」の位置の変化や使われ方を捉えることで,私たちの無意識な行動さえもデータ化しようとしているのです。これにより,使いたいときにパソコンが自動的に,しかもあなたが使いやすい絶妙な角度で開く,そんな気の利いた空間が実現するのです。

役立つとは,やさしさの結果である

李先生子供の頃,悪と戦う正義のロボットアニメを見てロボット科学者に憧れた先生。小さな頃から,人の役に立つものをつくりたいという気持ちは変わりません。そのために,先生が注目したのは,「人が何かをするときの,自分以外のものとのインタラクション(相互作用)」でした。インタラクションを分析することで,人への「やさしさ」が生まれ,ロボットがそのやさしさを形にできれば,もっと日常生活の中でロボットが活躍する日が来るはずです。