自然の力を取り入れ、地球にやさしい快適空間をつくる 近本 智行
理工学部 建築都市デザイン学科 近本智行 教授
寒い冬には暖房,暑い夏には冷房として私たちの生活を快適にしてくれるエアコン。エネルギー問題,地球環境問題を抱える私たちが,エネルギーをあまり使わない快適な暮らしを求めることは果たしてかなわぬ夢なのでしょうか。自然の力を活かし,この夢を現実にするのが「未来の快適空間」です。
脱エネルギーの思いを設計図に込めて
温室効果ガスのCO2は,その排出量の3分の1が建築にかかわっており,その多くは空調など建物の運用に使用されるエネルギーが原因です。そんなエネルギー依存の建物が多い中,近本先生が手がけたリバティタワーは,その特徴的な換気システムが大きな注目を集めました。なんと,17階までの窓から取り込まれた空気は,中央のエスカレーターの部分を通って18階へと通じ,外に排出されます。温まった空気の上昇気流をうまく活かし,建物全体を通したダイナミックな換気システムを実現したのです。これにより,空調機の使用量が大幅に低減したといいます。
人口が集中し,ビルが増え,ヒートアイランド現象などの問題を抱えた都心において,先生はエネルギー依存体質脱却の思いを設計図に表現し,その象徴をつくり上げたのです。
打ち水の効果を最大化する外壁タイル
先生はさらに,建物の材料にも革新をもたらしました。夏の日光よる外壁温の上昇は,室温を上げる悩みの種です。そこで,外壁の熱をうまく逃がすために,信楽焼を使った「外壁冷却タイル」を企業と共同開発しました。表面に塗った特殊な釉薬<ゆうやく> がつくりだす凹凸<おうとつ> は,毛細管現象によって水分を効率よく拡散することができます。打ち水の気化熱による温度の低下を最大化する材料をつくったのです。
実際に,試験棟の壁で実験してみると,直射日光で48.1℃になった壁が,打ち水10分後には35.9℃まで下がっていました。真夏に植物が育たないほど高温になってしまう壁面も,ここまで温度を下げることができれば,植物が生育できるようになります。打ち水と壁面緑化を組み合わせた結果では,なんと空調による電気使用量を43%も抑えることができました。
建築と自然の融合が生み出す快適さ
「目指しているのは,いかにエネルギーを使わずに快適さを実現するかです」という先生は,人の周りから都市に至るまで,さまざまな規模で快適空間を実現しようとしています。共通するのは,自然の原理を設計,材料,空調制御などに取り入れるというもの。エネルギー依存の今の生活に風穴を開け,目指すのは,地球にやさしい快適さを生み出す「建築と自然の融合」です。
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