世界一の試作環境は日本にある WHILL株式会社・墨田加工株式会社
素早く資金を集め、素早くアイデアを製品化する新しいかたちの製造業が注目されている。その日本におけるフロントランナーが、次世代車椅子「WHILL」の開発を行うWHILL株式会社だ。現在急ピッチで試作機開発を行う同社のCDO(最高開発責任者)である内藤氏、メカニカルエンジニアである榊原氏と、同社が外装製造のパートナーに選んだ墨田加工株式会社の社長である鈴木氏が、試作開発における町工場とのかかわり方について語る。
求めるものはスピード&クオリティ
内藤:WHILLは2012年5月に設立し、本年7月にはアメリカで100万ドルの資金調達に成功しました。現在は12月からアメリカで行うユーザーテストに向けて試作機の開発を急ピッチで進めています。試作を進める中で、プラスチックの外装を製造できる町工場を探していて、知り合いから墨田加工さんを紹介してもらいました。
鈴木:墨田加工は、プラスチックの成形や切削などの加工技術を総合的に提供する墨田区の町工場です。ロットや精度など、お客様のニーズに応じた成形方法を提案し、小ロットから大量生産まで対応しています。WHILLさんのように試作段階での依頼も数多く来ますね。
内藤:何社か見積もりを取った中で墨田加工さんにお願いをした一番の理由はスピードとクオリティです。元々僕と榊原は家電メーカーのエンジニアだったので、乗り物を開発した経験もなければ小ロットの外装を作ったこともありません。そんな中で、加工方法や材料選定、設計などこちら側のニーズと意図を聞きながら、ものづくりの面で引っ張っていってくれる技術的な情報の質とスピードの速さが決め手でした。
榊原:実際の試作段階でもこちらの持ち込んだ外装のCGデザインについて、形状的に無理のある部分を指摘してくれて、できるだけイメージが変わらない代案を出してくれています。相手によっては「できない」と断られるケースも多いのですが、墨田加工さんはディスカッションしながら一緒に作り上げていってくれるのがありがたいです。
試作段階で“任せる”ことの重要性
内藤:試作機作りも最初は自分たちにできないこと以外、全部自前でやっていたんです。大手メーカー時代にやっていたのは量販品開発だったなので、ノウハウが社内に蓄積しているし、完全な新規開発ではないのでスケジュールも読めるんです。でも、ベンチャーのものづくりはゼロからの開発。1個ずつのパーツを慎重に考えても、自由度が高い分、思ってなかったところで失敗します。だからこそ、短い期間でトライ&エラーを繰り返す必要がある。1か月でVer17まで設計を繰り返したりしていました。
榊原:そんなスピード感なので、自分たちでやったほうが早いと思っていたんです。3Dプリンタやレーザーカッターなど、最近では簡単な加工手段がありますから。でも、ちょっとした材料のカットに1、2時間とか、とにかく時間がかかる。さらにできあがった後もねじのゆるみや溶接など、自分たちがやったところが壊れていく。3日に1度修理するペースでしたね。結局、ものづくりの部分はプロに任せたほうが早いしクオリティも高いです。
鈴木:そうですね。お客さんの中には大型機械をうちの工場に持ち込んで、その場でトライ&エラーを繰り返しながら一気に開発を進める方もいます。相手の要望をどうやって実現するか。相手がイメージしていない問題点を解決できるかが腕の見せ所です。
町工場の魅力を世界に知らしめる
鈴木:ところでWHILLさんはアメリカでの販売に向けて動いていますがなぜ開発の場もアメリカではなく、日本を選んだんですか?
内藤:試作スピードが抜群に早いからです。日本は物流が発達しているので、必要なものを注文すると1日で届く。海外で注文したら3日から5日くらいかかってしまいます。
榊原:あとは“粋”な日本人特有の気質ですね。ただのビジネスとしての受発注の関係を超えて一緒にいいものを作ってくれる。夜中の23時に工場を動かしてくれたり、こちらの要求の倍のクオリティを出してくれたり。たとえば、1mm~0.5mmくらいの寸法精度で加工をお願いしたら0.1mmの精度にしてくれたことがあります。
鈴木:実際にものを作るときには、パーツ1個ずつの誤差が組み立ての際に上乗せされていくので、1つ1つのずれがコンマ数mm程度でも、最終的に2~3mmの誤差になることもよくあります。だから必要な場所には寸法精度の高いものを提供します。そうしないとよいものが作れませんから。
内藤:そういうのがとてもありがたいんです。開発において重要な要素はQCD(Quality、Cost、Delivery)と言われています。日本は物価も人件費も高いイメージがありますが、実際には部品も人材も品質を考えれば割安ですし、狭い国なので物流も完璧です。このことを考えると、日本は試作大国になれるポテンシャルを持っているはずです。まだまだ僕らは、世の中に製品を販売していないので説得力がありませんが、来年にはアメリカでの販売を予定しています。WHILLがアメリカの公道を走り、地域に根ざすという結果を出すことで、日本で試作をすることのクオリティとスピードの高さを世界にアピールしていきたいですね。
WHILL株式会社
墨田加工株式会社
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