miRNAとテロメアの解析で拓く次世代のリスク診断

miRNAとテロメアの解析で拓く次世代のリスク診断

マイクロアレイによる疾病のリスク診断が主流の中、これまでとは異なる技術で診断を行うベンチャーも立ち上がってきた。広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授の田原栄俊氏の研究成果をもとに2012年に設立された株式会社ミルテル(MiRTeLCo.,LTD)は、その名前に表されるようにmiRNA(MiR)とtelomere(TeLomere)に関する同氏の成果をもとに始まった会社だ。

定量的にテロメア長とG-tail長を同時に測定する世界オンリーワンの新手法

ヒトの染色体末端には5’-TTAGGG-3’の繰り返し配列からなるテロメア領域が存在する。この突端は二本鎖ではなく3’末端が75~300塩基の一本鎖として突出した構造をとる。この領域はG-tailと呼ばれ、テロメア関連因子などの働きによって末端領域がt-loopとよばれるリング構造をとる際に必要な領域であることがわかっている。テロメアは細胞分裂時に短縮することが知られているが、G-tailは細胞分裂後も長さが維持されることが知られていた。一方で酸化ストレスやDNA損傷などがG-tailの短縮を引き起こすことや、がんや老化にともなう疾患でもG-tail長さの短縮が起こることが報告されている。

G-tailを検出するための技術はこれまでにいくつも開発されてきていたが、放射性同位体標識やゲル電気泳動等を用いるもので作業が煩雑なものであった。田原氏らはそれまでの方法の問題点を解決した新しい手法を開発した。NatureMethodsでも報告したG-tail telomere HPA (Hybridization Protection Assay)は、ひとつのチューブ内で標識したプローブをG-tailにハイブリダイズし、最終的に標識物質の化学発光量からG-tailの長さを決定する方法だ。すでに特許も取得し、これが同社の技術の強みのひとつになっている。さらに、96wellプレートに対応したハイスループットでG-tailを解析する世界初の装置の開発も行い、臨床検体を用いた多検体に対応できる体制が整いつつある。

全血を用いた次世代診断、ミルテル検査

独自技術を利用したテロメア長、G-tailの測定・解析に加えて、血中のmiRNAの測定・解析をあわせて実施するのがミルテル独自の世界初の検査、ミルテル検査だ。受診者の全血中にある細胞はテロメア、G-tailの解析に、残った血漿はmiRNAの解析に用いる。大きな特徴は、ただ単にmiRNAの解析を行うのではなく、テロメア長とmiRNAの量をリンクさせてミルテル独自のアルゴリズムで解析できる点だ。テロメアの正確な測定を自社でできる同社の大きな強みだと田原氏は自信をみせる。この技術を使った個人レベルの疾患のリスクを評価する疾患予防検査、がんや老化疾患のリスク診断サービスが2013年9月11日から始まった。

すでにいくつかの病院やクリニックに導入されているミルテル検査だが、必ず個人が追いかけられる医療機関やクリニックを通してしかサービスを提供していない。G-tailの長さやmiRNAの量は時期によって異なり、一度受診しただけでは、それが一過性のものか、疾患に関係したものかの判別が難しい。病気の予防、早期発見、治療につなげるためには継続的な診断と検査結果に基づいた疾患予防のカウンセリングが求められるからだ。

「将来的には核酸医薬の開発も視野に入れています」と言う田原氏は、すでにmi-R22が細胞老化を誘導し、がん細胞に対して作用させるとがん細胞の増殖を抑制することを報告している。日本発のミルテルの独自技術の発展と、そこから産まれてくる新たな核酸医薬の知見に注目したい。

株式会社ミルテル http://mirtel888.wix.com/mirtel