基礎と応用を分けるのはもう古い? 課題解決のための「理・工」の挑戦的連携へ 加藤 知

基礎と応用を分けるのはもう古い? 課題解決のための「理・工」の挑戦的連携へ 加藤 知

加藤 知 教授 理学博士
関西学院大学大学院 理工学研究科委員長

理学部を原点として基礎を重視してきた理工学部は、2015年4月に新しく3学科を設置構想中だ。iPS細胞やIT技術の研究にみられるように、基礎から応用までのスピードアップが重要視される昨今、時代の要請に応じる研究者・技術者の育成とはなにか。研究科委員長の加藤さんに、自身の研究経験をもとにして、新しい研究科の方向性について語って頂いた。

生命研究の原点は、キリスト教との出会い

加藤さんは若い頃にキリスト教に出会い、そのことが今の研究にも繋がっている。「多くのクリスチャンは、すべてを物質に還元する唯物論で生命は説明しきれないと、漠然と考えています」。加藤さんはクリスチャンだからこそ、生命はモノとしてどこまで理解できるのかを曖昧にしたくないと、生命への探求心の原点を穏やかに語る。物理学科を卒業後、大学院ではバクテリアのベン毛の研究をしていた加藤さん。「物理的な視点で生命の何を見ようかと考えていたのですが、就職後に研究対象とした生体膜は、環境を囲い込む生命の原点であり、雑多な分子の集合体で、実にしなやかで多彩な構造を担っているし、きれいな回折像も得られ、興味尽きない材料です」と目を輝かせる。最近の研究では、体を外部環境から守る皮膚角層中の脂質層に着目し、その構造が皮膚のバリア機能とどう関係しているのか探っている。こうした研究の成果が、たとえばアトピーの人の皮膚がカサカサで水分蒸散量が多い原因の解明につながっていくと期待される。

基礎と応用の蜜月

加藤さんは、生体を傷つけないように採取した極微量の試料で皮膚角層の構造を見るべくオリジナル手法を開発した。電子線で壊れ易い角層の構造を保って観測するために、1秒間・1平方ナノメートルに1個以下の電子というとても暗い条件で角層細胞の回折像が得られる他に類を見ない斬新な手法だ。「一個の角層細胞を囲んでいる脂質層の構造の温度依存性まで簡便に測れる解析手法は他になく、個々の人の肌状態の評価や薬品の経皮吸収のメカニズム解析など、化粧品関連の企業との共同研究が一気に増えました」。科学技術の進展によって、応用的発想が眠っている基礎を呼び覚まし、基礎が真のイノベーションへの呼び水となる時代、基礎と応用が互いに刺激し合う時代が来たことを、身を持って実感したと言う。

新9学科で挑むイノベーション

加藤さんに限らず、関西学院には基礎研究に軸足を置きながら企業と共同研究をする人が多い。その背景には、時代の流れの中で「基礎」から「応用」へのスピードがアップしたため、基礎を重視してきたことが、逆にイノベーションにつながり易くなったことを如実に示している。関西学院の研究の質の高さは、半導体分野で誰もが知る特許を持つ人がいたり、民間企業との共同研究1件あたりの研究費獲得で国立大学も含めて全国第4位にランキングされたりすることなどでも顕著だ。このような背景のなか、いよいよ2015年、理工学部は応用に重点を置いた、「生命医化学科」、「環境・応用化学科」、「先進エネルギーナノ工学科」の3学科を新設予定だ。真のイノベーションを生み出すための9学科体制が誕生する。応用のためにますます基礎を求められる今だからこそ、10年後の社会で活躍することを夢見るなら、ぜひ関西学院の門戸を叩いて欲しい。

プロフィール

1984年名古屋大学大学院理学研究科博士課程分子生物学専攻修了、理学博士。名古屋大学工学部応用物理学科助手、1992年関西学院大学理学部物理学科助教授、教授を経て2002年より現職。研究分野は、皮膚角層および人工脂質膜の構造・物性。趣味はリコーダー演奏。

関西学院大学大学院理工学研究科 入学試験情報

本研究科では、卒業生が文化勲章など数多くの賞を受賞したほか、研究内容が文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業や産学提携研究事業に採択されるなど、高い評価を得ています。物理学、化学、生命科学、情報科学、数理科学、人間システム工学の6専攻を設置。英語で学位を取得できる「国際修士プログラム」や、企業、官公庁、教育・研究機関等で勤務されている社会人の受け入れも積極的に行っています。研究科の詳しい情報や、各種入学試験情報は、HPをご覧下さい。  http://sci-tech.ksc.kwansei.ac.jp/ja/