ポスドクキャリア支援の指針が出た〜博士のキャリアはどこへむかうのか〜
「ポスドク」就業、国が支援…研究ポストを拡大
こんな記事が読売新聞の電子版に掲載されていた。 国立大に
〈1〉学内で若手向けのポストを増やす〈2〉産学連携を強化し、企業も含め安定した職に就けるようにする
ということを推奨し、国立大の運営交付金の配分についてこの基準をもとに見直す、ということだ。 ここ数年で大学は企業インターンシッププログラムをカリキュラムに取り入れるなど大学院の専門人材に向けた就業教育を行ってきた印象だが、これでますます加速するだろう。でも私は出口を加速させるだけでは本質的な解決にはならないのではないかと思っている。
リバネスは専門人材であることが強みになる会社なので、私は博士課程の学生やポスドクのインターンシップの企業側の窓口として受け入れを行ったりすることがよくある。インターン生にも博士課程の学生やポスドクが多くいるし、大学にいって博士課程の学生に研修を行うこともある。 そういう中で少し残念に思うことがある。たとえば企業訪問をコーディネートするときに希望の企業を聞いたり、将来どんな仕事につきたいのか、と聞くと、たいていの人が、アカデミアに残るか、高校生や大学生でも知っているような企業の名前が挙がり、そういうところの研究所に行きたい、という。 もちろんそれ自体は悪いことではないと思う。それはしかし、いろんな選択を検討した上でのことだろうか。修士でも研究職を採る大きな企業が博士にもとめていることはよっぽどマッチする専門性をもっているか、または逆に、新しい事業のために異分野の専門家が欲しい場合ではないだろうか。そこに自分は当てはまるだろうか。企業が求めていることと、自分がやっていきたいことは一致しているだろうか。別の切り口はないのだろうか。
リバネスはキャリアチェンジを推奨する会社では決してないが、どんな場所であれ、自分でキャリアをつくっていく力をつけてほしいと言う思いでキャリアマガジンを出し、研修を行っている。用意されたように見える器の中に入ろうとするだけではなく、これまで選択肢になかったポストに自分の居場所を作っていったり、新しい場所を自分で作り出すことをしていってほしい。これだけ変化する世の中にあって、すでにあるポストを目指してみんなが集まるのは最適でない。仮説と検証を繰り返し、論文という形にまとめ、哲学の応酬である博士論文審査までいった博士こそ、それができる、と思っている。そのために、自分のキャリアについても、産業についてももっと早いうちから考え、学ぶ機会がないことが、この今の状態をもたらしているのではないかと感じている。産業界も含めて博士の出口を考えていくなら、そのようなことを早いうちから学べる人材育成こそ要なのだ。
博士は決して専門バカではなく、博学の士である。自分の専門を柱としながらも、学問の奥行きを知っている。学問と世の中のつながりを知ってこそ、博士なのではないかと思う。今回の動きが出口にだけ向けられるのではなく、キャリアを開拓出来る人を育てる人材育成面の強化を各大学にお願いしたいと思うし、そんなメッセージを私達も発信し続けていきたいと思う。そして、独自で続けているインターンの仕組みや、大学内でのカリキュラムで私たちに力になれることがあるなら、ぜひ一緒に人を育てることをやっていきたいと思う。