偶然をチャンスに変える〜MITに導かれた日本人女性研究者〜 堀 有希

偶然をチャンスに変える〜MITに導かれた日本人女性研究者〜 堀 有希

堀 有希(ほり ゆき)さん

Ph.D. Polymer Science and Technology デロイト トーマツ コンサルティング コンサルタント

高校生までを南米で過ごしてきた堀有希さんはある ことがきっかけで MIT(マサチューセッツ工科大学)を 志した。その後、MIT で生体材料の研究で博士号を取得。 現在は医療分野のコンサルタントとしてビジネスに挑戦 している。研究とビジネスの両輪で将来は医療の世界に 貢献したいと一歩ずつ夢を引き寄せている。

 

MIT から来た手紙

「最初はあまり興味を持っていなかっ たんです」。堀さんは MIT から一通の手 紙が届いたとき、そう考えていた。その 手紙は同校を受験しないか、という誘い だった。高校生までをメキシコで過ご し、大学は文理問わず学べるアメリカの 総合大学を目指していた彼女は、理系 に特化した MIT を志望校に入れていな かった。しかし、資料を取り寄せるの も一苦労のメキシコに届いた受験案内。 せっかくなのでと受験すると、一番早く 合格通知が届いた。「苦手な文系科目も 頑張って総合力を磨こうと思っていたけ ど、自分は苦手な科目に時間がかかりす ぎていた。好きだった理系科目にもっと 時間を使えるのもいいかなと思いはじめ たんです。」、と彼女は MIT に進学する ことにする。高校では数学と化学が好き だった堀さんは、同校で両方の魅力が詰 まった材料工学を専攻した。

恩師の一言で博士の道へ

MIT の材料工学部では卒業論文は必 須ではなく、複数の研究室のプロジェク トに参加したり、企業インターンシップ を経験してレポートを出すことで、研究 の道か就職かを見極めるチャンスを与え られる制度があった。次の転機はその経 験から得られる。堀さんはインターン先 の上司を見て、その豊かな専門知識に圧倒された。彼が博士号取得者であることを知り、学部で勉強するだけでは到底たどりつけない世界があるのだ、と感じて進学を志す。企業就職を見据え修士課程(マスターオブエンジニアリング)に応 募しようと指導教官に推薦状を書いても らいにいくと、彼は言った。「Yuki みた いな優秀な人は博士課程まで行くべきだ よ!」「修士で辞めることはできるので、 先生がそんなに言ってくれるなら」と堀 さんはまたも巡ってきたチャンスとし て、博士課程に挑戦することにした。

行動しながら次をつくる

 博士課程ではガンの免疫治療のためのバイオマテリアルの研究に従事した。研究室で初めての動物実験に着手するなど多くの困難が立ち塞がったが、無事に博士号を取得。以降、医療に貢献する仕事に携わりたい、と様々なキャリアを積んできた。最初に就職した日本の外資系医療機器メーカーでは医療機器の開発について学び、新しいプロジェクトの立ち上げでは、何もないところから新しいものをつくりあげる楽しさを実感した。その後、アカデミアの研究をこのまま離れるべきかどうかを考えるため、今度はスタンフォード大学のポスドクのポジションに応募。再び戻った研究の世界では、研究開発だけではなく医療業界のビジネス も理解できる人材になりたいという思い を再確認した。「スピードの早いビジネ スの世界で自分自身もっと成長させてい かなくては」。そして今、国内の外資系 コンサルティングファームで、医療業界 のコンサルタントとしてビジネスを勉強 中だ。偶然目の前に現れた選択肢をチャ ンスと捉えて前に進み、行動する中で次 を掴む。堀さんのキャリアはこうして開 かれてきた。思い切りの良さと柔軟さが これからの堀さんをさらなる広い世界へ 導いていくだろう。

<プロフィール>

南米で生まれ育つ。MIT(マサチューセッ ツ工科大学)への進学を機にアメリカへ渡 り、ガンの免疫治療に使う素材の研究で Ph.D. 取得。その後、日本の外資系医療機 器メーカーで、医療機器の公的申請や研 究助成金プロジェクトの立ち上げに従事。 スタンフォード大学でのポスドクを経て、 現在はデロイト トーマツ コンサルティン グ株式会社に勤務