戦略的に生きている人は、意外と多くない 伊藤大雄
伊藤大雄先生は、京都大学数理工学科出身の研究者。現在は電気通信大学 大学院 情報理工学研究科 情報・通信工学専攻に所属している。
「そこにエベレストがあったから」と答えたジョージ・マロニーになぞらえ、「そこにパズルがあったから」と答えるほどにパズルがあったら解かずにはいられないと言う程のパズル好き。
研究分野は数学の中でも解析や代数といった領域ではなく、パズル的に考えられる離散数学を得意領域としている。
問題や違和感を感じたら、それを解消せずにはいられない。例えばレストランのメニュー表でさえも、違和感のある表現があると「なぜその表現にしたのか?」と店員に聞いてしまうという。
先生の純粋な探究心は、それを向けられる側はクレームじゃないかと身構えられる事が多いようだが、それが分かっていても気になることは気になるという性格だそう。探究心は数学だけに留まらず、生活環境全てに対して向けられている。そんな先生のキャリア選択と生き方に迫った。
研究が好きすぎるからこそ、敢えて就職を選んだ
多くの学生が悩みに悩むタイミングである。修士課程卒業後の進路。伊藤先生にも、その時はやって来る。
将来的に研究職に携わりたいと思っている人であれば修士の学生が博士課程に進学するのは当然という環境の中、伊藤先生は就職という道を選ぶ。
「このまま進学してしまったら、完全に世界が閉じてしまうのではないか」。
研究自体が好きだったと自らを振り返る伊藤先生だが、それ故にストレートにアカデミアに残ることへの危機感があった。
好きな事にはとことんのめり込む性格が、将来の道を閉鎖的にしてしまうかもしれない。そこで、敢えて一度社会に出るという事を選択したのだ。
卒業後はNTTの研究所に就職。
当時は、大学より民間企業が圧倒的に良い研究環境を持っていた時代。
9年間の在籍で、社会を見、人とのネットワークが出来たのは収穫だった。
しかし、30台半ばのとある日に、伊藤先生は退職を告げるのである。
NTTと言えば最大手の企業だ。それを辞めるだなんて!と、多くの人は反対したというが、そこに迷いはなかった。
自分のやりたい研究はこれなのだ!
その研究分野の最先端にいたかった。自らの探究心には抗えなかった。
NTTの求めているものと、自分のやりたい事が乖離してきたという事などを理由に上司を説得。円満退社でアカデミアへと戻ることに成功する。
戦略的に生きている人は、意外と多くない
社会に出ることも、アカデミアに戻る事も、自分の専門領域を決めるときですらも、伊藤先生は戦略的な思考を欠かさなかった。
常日頃から、考え、向き合い、戦略的に選択肢を選んできた。
当然全てがうまくいく訳ではないのだが、戦略を考えて生きたほうが、ずっと効率が良いし、幸せになれる。
自分が幸せになるにはどうしたらいいだろうか。その上で周りの人を幸せにするには?
常に思考し、選択肢を自ら選ぶ事を繰り返す。そして人間関係を良好に保つという事も心がけている。
こうしたいくつかの日々の積み重ねが、運を掴み、はっとするような結果を出すことに繋がるのだ。
「常に戦略を考え、先を見通しながら生きていけ」
伊藤先生の笑顔を見ていれば、そうやって生きてきた結果がどこにつながっているのかは見えるだろう。
クレバーに生きる事が苦手な人は、伊藤先生とディスカッションしてみるのも良いかもしれない。
伊藤大雄先生プロフィール
所属:電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・通信工学専攻
研究室HP:http://www.alg.cei.uec.ac.jp
伊藤大雄先生HP:http://www.alg.cei.uec.ac.jp/itohiro/index-j.html
研究テーマ
- グラフアルゴリズム
- 定数時間アルゴリズム
- 組合せ最適化問題の解法と計算の複雑さの理論
- 離散数学と娯楽の数学
近年は定数時間アルゴリズムという手法でビッグデータ解析に挑んでいる。
インタビュアー所感
今だから言えることだけどという前置きがあった上で「NTTにいた9年間をアカデミアでみっちり修行していたら違った世界に行けたかもしれないなと思うことはある」と、過去を振り返っていたのが印象的であった。それほどまでに20台〜30台の若いころの環境は重要だろうと感じているという点は、多くの若者に伝えたいことの一つだと言える。