いくつになっても,筋トレをしよう 藤田 聡
スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 藤田 聡 教授
単元に関係するキーワード 生物「生命現象とタンパク質」
高校生の頃,テニス部で日々身体トレーニングと練習を重ねる中で,ふと考えた疑問。「最も効率よくパフォーマンスを上げるには,どうすればいいだろう?」その後,所属していたテニスクラブのアメリカ人コーチが教えてくれた,栄養学やスポーツ科学の考え方に惹かれ,藤田先生は栄養とトレーニングと筋力の関係を追い続けています。
パフォーマンス向上の鍵は,根性より科学
トレーニングの常識は,時代とともに変化し続けています。昔は,運動中に水分を取るとパフォーマンスが低下するといわれていましたが,今は脱水症を予防するために水分摂取は常識になりました。また,運動時にアミノ酸を摂取するようになったのも,ここ10年くらいの話。「実験データをもとにしたエビデンス(証拠)が,それまでの説を補強したり,覆したりしながら,スポーツの科学は進歩してきています」。
大学から渡米し医学部で研究を行ってきた先生は,筋肉の合成にかかわる遺伝子の働きを測定する,というような生物学的な方法でトレーニング効果を調べています。「そもそもどういうしくみで筋力が上がるのか,根本的なところがわかっていなかったんです」。調べてみると,たとえば同じプロテインを摂るにも,牛乳由来のものと大豆由来のものでは筋合成にかかわる遺伝子の働きへの影響や脂肪燃焼効果などが違っていました。また運動して何時間後に摂取するかによっても筋タンパク質の合成速度が変わったりと,研究をするほどに「よりよい方法」がわかってきました。
筋トレでロコモを防げ
科学の視点で筋肉を見る先生の,今一番の興味。それは, 「筋トレは若者だけがするべきことなのか?」ということです。歳をとると,だんだん筋肉が衰え,動きがゆっくりとしてくる。それを「当たり前で,しかたないこと」ととらえず,歳をとった後の効果的な筋トレ方法を考えています。「加齢による筋力低下によってつまずきやすくなり,転倒して骨折し寝たきりになる。その結果からだが衰えて亡くなってしまうというのが,実は高齢者の死亡率の高い割合を占めているんです」。 最近は「ロコモ(ロコモティブ・シンドローム)」という呼び名で認知を広げている,加齢に伴う運動能力の低下
を,トレーニングで予防できないか。先生は,ケガをしにくいゴムバンドを使った全身の筋トレ方法をつくり,その効果を実証してきました。
「治す」の前に,「保つ」を考える
「高齢者の方でも,週2回,1回45分の筋トレを3か月で,太ももだけで筋肉が500gは増えますよ」。トレーニングをはじめて1~2週間で階段の昇り降りが楽になると実感でき,好評だというゴムバンドトレーニング。これを先生は社会を巻き込んだ予防策にしていこうと模索しています。
健康のための研究というと,病気の原因を調べたり,薬をつくる研究が思い浮かぶかもしれません。でも実は,からだのパフォーマンスを上げ, 「健康な状態を保つ」というのも,とても大切な視点なのです。