研究への熱意から生まれた アントレプレナーシップ 高橋 祥子

研究への熱意から生まれた アントレプレナーシップ 高橋 祥子

株式会社ジーンクエスト 代表取締役 高橋 祥子 (たかはし しょうこ)さん

日本において起業を経験する人はほんの一握り。まだまだ身近な存在ではない。博士後期課程に在学する若手研究者ながら個人向け遺伝子解析サービスを提供する株式会社ジーンクエストを立ち上げた高橋祥子さんも、自分が起業するなど考えたことがなかった。普通の理系学生だった彼女が事業を興し、研究を社会に還元しようと決めた理由は何だったのか。そこには、研究者がアントレプレナーシップを発揮するヒントがあった。

ビジネス経験ゼロからの起業

ジーンクエストは生活習慣病など、日本 人に関係の深い約 5000 種類の遺伝子を調 べ、200 種類の項目の遺伝子的な病気リス ク、体質などの情報を得ることができる遺 伝子解析サービスの会社だ。高橋さんが会 社を立ち上げたのは博士後期課程 2 年生の とき。DNA マイクロアレイを使った糖尿 病メカニズムの研究に夢中になり、四六時 中研究室にこもる生活を送っていた。しか し、研究費獲得のための書類作成にすら、 膨大な労力をかける現実に直面するうち に、ひとりでできることには限界があると 感じるようになった。ちょうどその頃、起 業経験のある研究室の先輩と出会い、議論 をするうちに、起業という選択肢に行きつ いた。「それまではビジネスでお金を稼ぐ ことすら否定的なイメージがありました」。 サービス化すれば資金を獲得しながら多く の遺伝子データが集まり、更に研究を加速 するような仕組みになり得る、ということ がわかったとき、「起業は変な選択肢じゃ ないかも」と思えるようになった。

新しいことが理解されないのは当たり前

「起業を決意したら一刻も早く登記した いと思いました」という高橋さん。この数 で遺伝子配列を読むコストが大幅に下がり、一般市民が利用可能なサービスが多く立ち上がった。同様の事業は今後も乱立していくことが予測される。遺伝子情報はまだ明らかになっていない部分もあり、誤解されている部分もある。結果を正確に伝えることと、わかりやすく伝えることが相反することも、このビジネスの難しさだ。早く市場を獲得し、正しい活用法を広めたいと考えた。

最初の資金は個人投資家を回って集め た。多くのところを回ったが、学生でビジ ネス経験のない高橋さんは、ほとんど相手 にされなかった。「新しいことだから理解 されないのは当たり前。みんなが理解する ことはあんまり新しいことじゃないと思う から、成功率が低いほど、新規的なことを やっているんだ、と思うことにしました」。 多くの先輩起業家にも助けられ、サービス のローンチまでこぎつけた。現在は様々な 企業と連携し、約 1 万人のユーザーを得て いる。

研究者と起業家の共通点

典型的な「起業家」のイメージとは遠い 彼女だが、起業することは自然な流れで決 まった。「アントレプレナーシップがある 人は、放っておいても勝手に自分で進められる人だと思います。言われたらできる力 ではなく、熱意を持って自分で進められる ことが大事」。仮説検証を繰り返す研究者 にもその力は必要だと考えている。「研究っ てほとんどが地味な作業だし、本人の裁量 がすごく大きい。大きな熱意がないと進め られないですよね」。

「卒業したら会社に集中したい」と語る 高橋さんの今後の目標は遺伝子検査の普 及。一般的にはまだ結果がわかりづらいこ とや、検査したものの、その後の予防や生 活習慣の見直しに役立つサービスはまだほ とんどできていない、など課題は多くある。 学生がアントレプレナーシップを鍛えると したら?との問いには、「アントレプレナー シップは伝染する。わたしも身近にそんな 人がいたから起業できた。もし持ちたいな ら、刺激的な人と会ったらよいと思います」 と答える。研究者であり、起業家のマイン ドを持った彼女は、研究と社会をつなぐ熱 意を糧に、これからも伸びていくだろう。

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