若いからだを取り戻し、 漂い続けるベニクラゲ
超生命体ラボとは、常識を超えた生命、すなわち「超生命体」を追い求め、生物の驚異にせまる研究を紹介するコーナーである
生命の危険を回避する方法
生きている限り,死は必ず訪れる。一度,自然界で瀕死状態になった生き物がよみがえることはほとんどない。しかし,世の中にはそのような常識を覆す生き物がいる。それが,ベニクラゲだ。
海の中を泳いで暮らす種類のクラゲは,捕食者から攻撃を受けたりして泳げなくなると,それは致命的なダメージとなる。他にも,エサが得られなくなるなど,個体としての生命の危機が訪れたとき,ベニクラゲのからだは退化して肉団子のような状態になり,ストロンと呼ばれる糸状の根を生やす。そして,退化し始めてから数日ほどで,イソギンチャクに似たかたちをした,「ポリプ」と呼ばれる子どものベニクラゲに若返るのだ。
ベニクラゲの若返りは,イタリアで最初に報告された。これを聞いたベニクラゲ研究者の久保田信博士は,鹿児島でベニクラゲを採集し,地元の水族館職員と日本で初めての若返り実験を行ったのだった。
若返りの謎解きはこれから
ヒトに関する研究の世界では,iPS細胞が「若返り」を起こした細胞として有名だ。iPS細胞は,細胞に外から無理やり遺伝子を導入してつくる。しかし,ベニクラゲの若返りに遺伝子導入は必要ない。もとから「若返り能力」が備わっているのだ。しかし,研究者が少ないため,多くの謎が残されているのが現状だ。これまで観察された結果についても,北日本型より南日本型のほうが若返りしやすい,からだが大きいと若返りしにくいなど,原因不明のものが多い。
他の多くの生き物にはないユニークな特徴をもつベニクラゲを研究することによって,人類は「若返り」や「再生医療」について,新しい知見を得ることになるだろう。それにはまず,未だ残っている謎をひとつひとつ明らかにしていくことだ。
(文・高山佳奈)