浮体式の成功を支える、 揺れに強い送電ケーブル 藤井 茂
発電設備には欠かせない送電システム。特に浮体式という異色の環境下においては、従来通りの手法が通用しない。今回のプロジェクトで、送電システムの開発を一手に担っている古河電気工業株式会社の取組みにフォーカスする。
海の揺れも何のその。世界初の送電ケーブルが誕生
再生可能エネルギーというと、電力源や変電設備に注目が集まりがちだが、作った電力を送電できなければ意味がない。再生可能エネルギーの送電システムは、発電所が設置される環境にあわせて、その性能や形状を大きく変える必要がある。今回、古河電工が開発した浮体式洋上発電用の送電ケーブル「ライザーケーブル」は、一般的な海底ケーブルとは異なり、波や潮流、浮体式設備の揺れに耐えうる性能を有し、最大で66kVもの高電圧を送電することができる。開発の秘訣は、海中浮遊状態でのケーブルの挙動を解析する高いシミュレーション技術。古くから海底送油管や海底ケーブルの豊富な実績がある同社は、ダイナミックな動きが要求される浮体式ケーブルの世界No1企業へと進化を続けている。
環境変化に対応する高いシミュレーション技術
従来のライザーケーブル用途では、陸から沖合の原油荷役用バース等に送電するが、今回は、海上で発電した電力を陸に送り出すため、発電所で生み出される高電圧に耐えうる必要がある。しかも、着床式とは異なり、海中の影響をダイレクトに受けることから、疲労による損壊を考慮する必要がある。この課題を解決するため、タンカー用途であれば直径10cm未満のところ、15cm前後に及ぶ太さのケーブルを開発した。また、がい装には曲げに強い2重交互撚りという構造を採用し、ケーブル中への浸水を防止する遮水層を鉛からステンレスに変えることで、風車寿命と同程度の推定20年もの長寿命を実現した。ケーブルの重量は、張力の影響を緩和できる軽量化のシミュレーションを行ったが、福島沖合の厳しい潮流ではケーブルが流されてしまうことが判明し、敢えて重量化へと方針を転換した。同社の得意とする緻密な解析とフィードバックを繰り返し、ライザーケーブルが誕生した。
洋上風力発電が秘める可能性を追う
「日本の場合は着床式に適した海が多いわけではないので、どこかのタイミングで浮体式に移行しないと再生可能エネルギーの割合は伸びていかない」と藤井さんはいう。いまはまだ着床式に市場が集まっている状況だが、ヨーロッパで海底ケーブルの需要が伸びていることを知り、同社の強みを活かせる洋上発電に早期から目を付けた。海底ケーブルのプレイヤーは世界でも数が少なく、浮体式となるとさらに数は絞られる。「再生可能エネルギーの中で一番ポテンシャルがあるのが浮体式。早く実用化までもっていき、浮体式といえば古河電工というトップバリューを目指したい」と意欲を語る。実用化に向けて建設コスト等の問題が残っているが、未来を見据えた意義のある取組みであることは間違いない。
古河電気工業株式会社
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