自分でつくった装置が,次の研究テーマを生む 田口 耕造

自分でつくった装置が,次の研究テーマを生む 田口 耕造
理工学部 電気電子工学科 田口 耕造 教授
単元に関係するキーワード 物理「光の性質」,「電流と磁界」

顕微鏡も電極も培養装置も,研究で使う機材は自分たちでつくる。それが田口研究室の大きな特徴です。「どうやったらつくれるか考え,調べるうちに,新しい研究のアイデアが浮かんでくるんですよ」。そうして興味を広げてきた結果,内視鏡や太陽電池など,新しい応用が見えてきています。

細胞をつまむピンセットをつくる

大学院を卒業して助手になったとき,入った研究室のテーマが「光ピンセット」でした。実は光には圧力があり,細く絞ったレーザー光を当てることで,細胞などの小さな物体をピンセットでつまむように動かすことができるのです。当時,観察に使うレンズを通してレーザー光を絞っていましたが,細胞をつまんで動かすと観察のピントが合わなくなってしまいました。「こんな不便なものは使えないと思ったんです」。そこで考えたのが,光ファイバーを使うこと。ここから,「つくる」研究がはじまりました。

とはいえ,開発は簡単ではありません。光が強すぎればつまんだ細胞が死んでしまい,弱ければうまくつまめない。そこで,使用するレーザー波長,強度を調整するとともに,細胞ひとつだけを操作できるように,光ファイバーの先端形状を工夫してレーザーを絞り込み,つまんだ物体を自由に動かせる光ピンセットを開発しました。

ファイバーと細胞から新たなテーマが生まれた

その過程で,新たなテーマが2つ浮かんできました。ひとつは光ファイバーを利用した新しい内視鏡です。特殊なレーザー光を使って物体表面から1mmほど内側までを観察できる「光コヒーレンストモグラフィ」という技術を組み合わせることで,消化管の壁の少し内側まで見える内視鏡をつくることができる可能性がでてきたのです。

もうひとつは,細胞の生死判定装置。溶液中に細い針金状と広い面状の電極を入れて,間に細胞などの粒子を置きます。そこに電圧をかけると,粒子内部がプラスとマイナスに分極。この分極の度合いが細胞の種類や生死によって異なり,各電極に引き寄せられる力に差が生まれます。これを利用して,生きた細胞と死んだ細胞を分離する装置を開発しています。

ひとつできるようになったら,次のやりたいことが見えてくる。それを追いかけているうちに,研究テーマが広がってきたと言います。

「調べる」「つくる」が研究の両輪となる

研究室のモットーとして「つくる」の他にもうひとつ,「調べる」ことがあります。「気になることがあったら,周辺の研究を調べ尽くします。そうすると,その中から疑問に思うことや,他に誰も研究していない課題が見つかるのです」。

細胞を自由に操作できるようになったところから,ナノ粒子の操作に興味が出てきました。そこから,太陽光を集める色素と金属ナノ粒子との間で電子の受け渡しを行う,効率のよい太陽電池の研究もはじめています。疑問を追求し,研究のための装置も自分でつくってきた田口先生は,今後も新たなテーマを開拓し続けるでしょう。