いつでもどこでもネットにつながる未来をつくろう 野口 拓
情報理工学部 情報コミュニケーション学科 野口 拓 准教授
単元に関係するキーワード 情報の科学「ネットワークの仕組み」
携帯電話の電波がなくても,いつでもどこでもネットワークにつながって,友人とメッセージをやりとりしたり,動画を見たりできる。そんな未来,すてきだと思いませんか?野口先生が研究する「アドホックネットワーク」は,それを実現できるかもしれない新しい通信技術です。
中心のないネットワークをつくる
現在,無線LANを使うには,近くの「無線LANルータ」という通信機器と接続する必要があります。このときネットワークの形は,中心にインターネットにつながった無線LANルータ,周囲に接続しているスマートフォンやタブレットなどの端末がある,というものになります。これに対してアドホックネットワークでは,端末どうしが情報を受け渡す網目をつくり,最終的にどこかでインターネットにつながります。この方式の利点は,近くに接続可能な無線LANルータがなくてもネットにつながり,また停電が起きてもバッテリー動作する端末があれば通信を継続できること。さらに,人が密集しても無線LANルータにデータが集中することがなくなるため,ライブ会場などでも回線がパンクしにくくなるのです。
データの受け渡しをコンパクトに
現在,被災地などでも使える新しい通信方法として注目されているアドホックネットワーク。中でも先生は,映像のライブ配信のような,多数の端末に同じ情報を送る方法を中心に研究しています。配信の大元から送られる情報をただ転送することを繰り返すと,複数の端末から同じ情報が転送されてくることが起きやすくなります。そのままだと通信量が肥大化してしまうのです。この課題を解消するため,各端末が受け取った情報をコンパクトに圧縮してから転送するネットワークコーディングという技術を組み込みました。
現在,多くの研究はコンピュータの中で情報流通のシミュレーションを行っていますが,先生はAndroid端末で実際に動作するネットワークを構築し,実証研究を進めています。
研究者が,新しい時代を開拓する
「私が研究をはじめた頃は,まだLANと言えばほぼ有線でした。でも絶対に無線化すると信じて研究を進め,スマートフォンが一気に普及したときは,『時代が来た!』と感じました」と,これまでを振り返る先生。新しい通信技術の研究は,常に少し未来を見据えて行うもので,研究している時点では,すぐには実現できません。ただ,たとえばYouTubeなどで使われる大容量の動画データを途切れることなく配信するしくみは,元は誰かが研究したもの。「すでに普及したシステムの裏には,過去に論文発表された技術が活きています。それがわかると,先輩たちの研究成果がきちんと実を結んでいることを実感できて,うれしくなりますね」。
研究者が道を切り拓き,機器や規制が追い付くことで,技術が社会に普及する。新しい時代は,そうしてつくられていくのです。