快適性を数式化して,新しいモノづくりに活かす 和田 隆広

快適性を数式化して,新しいモノづくりに活かす 和田 隆広
情報理工学部 知能情報学科 和田 隆広 教授
単元に関係するキーワード 情報の科学「モデル化とシミュレーション」

普段の生活の中で,自分のからだがどのような状態であれば「快適」と感じるか。私たちの周りにあるさまざまな機器をつくる際,これまでは経験を頼りに快適性を追求してきました。それを数値化しようという和田先生の研究から,新たな「人にやさしいモノづくり」がはじまろうとしています。

乗り物酔いを数式化

情報理工学部 知能情報学科 和田 隆広 教授

「より快適な車両制御の研究を開始したとき,そもそも『快適性とはなんだろう?』という疑問が生まれました。そこで,まずは車酔いが生じるメカニズムの数式化から取り組み始めました」。私たちの耳には,水平方向や前後方向の運動や傾きを感知する耳石や,回転運動を感じる三半規管が備わっており,常にからだの姿勢を把握しています。その感覚と,視覚などを元に脳で理解しているからだの状態にズレがあるとき,乗り物酔いが生じると考えられています。そこで,それぞれの働きをセンサとしてとらえることで数式化しました。そして,小脳にあるとされる過去の経験からつくられた内部モデルとのズレを算出する「車酔いを推定する数学モデル」を構築したのです。

このモデルは,車の動きを入力すると,車酔いで嘔吐する確率を計算できます。「おもしろいことに,私のモデルで導き出した結果と,実際に車酔いで吐く割合を調べた実験結果とが,かなり近い値を示しました」。

ちょっとした疑問が社会をよくする種になる

「運転手のほうが酔いにくいのはなぜだろう?」という疑問からも次なる研究テーマが生まれています。調べてみると,ドライバと助手席乗員では頭部の動きが逆向きであることが分かりました。そこで頭部運動のデータを先ほどのモデルに入力してみると,運転手と同じような頭部運動では車酔いが抑えられるという結果が出ました。学会などで発表すると「何の役に立つのか」,「頭部の動きは,前方を見やすくするためだ」など批判やコメントを受けることも多かったそうです。それでも,研究用の小型自動車にセンサを取り付け,走行テストを繰り返す日々。ときにはカートコースを借り切って,学生とともに気持ち悪くなるまで走るなど,徹底的に疑問に挑み続けた結果,同乗者がドライバをまねた頭部運動を行うことで,車酔いを低減できることもつきとめたのです。これらの成果から,企業との共同研究にも発展しており,市販の自動車に応用される可能性も見えてきました。

快適さの先にある協調を目指して

さまざまなできごとをモデル化して理解する。その結果,私たちの生活は少しずつ快適になっていくはずです。しかし,和田先生が見据えているのは,快適さの先にある「人と機械の協調」です。「人間って,かしこくて,でも怠け者なんです。快適さを追求しいろいろなサポートを充実させていくと,いずれ何もしなくなってしまうでしょう」。だからこそ,感覚を計算・予測し,ちょっと足りないくらいのサポートがあることで,「サポートと,人間の技量の上達が両立できるはずです」と和田先生は考えます。まずは,人間を理解すること。それが機械との理想の関係を築く,最初の一歩になるのです。