都市の未来と住民の幸せをつくりだす 岡井 有佳

都市の未来と住民の幸せをつくりだす 岡井 有佳
理工学部 都市システム工学科 岡井 有佳 准教授
単元に関係するキーワード 地学基礎「自然との共生」

みなさんが住んでいる街がどのようにしてつくられてきたか,知っていますか?「ここは戸建て住宅を中心とした緑に囲まれた住宅地にしよう」,「環境にやさしい街にするために,公共交通機関を整備して,中心地から車を減らそう」というように未来の姿を考え,計画を立て実装するための基盤を整えていくことを「都市計画」と呼んでいます。

人口減少社会の新しいまちづくり

都市計画は,全ての人々の生活に密接に関連する研究分野です。岡井先生は今後の社会経済情勢の変化を考えながら,法律を整え,どのように運用していくのかといった研究を行うことで,住む人みんなが幸せで豊かに暮らせる方法を模索,提案しています。

この分野で今一番のテーマは「人口減少」です。例えば過疎地域では,分散してみんなが好きな場所に住むと,利用者が少なくても電気や水道などのライフラインを整えたり,雪国の場合は除雪をしたりと,少ない人数のために莫大な予算が必要となります。そのため,生活区域を限定して予算配分を最適化し,誰にとっても住みやすい街をつくることを,都市計画の研究者は20年ほど前から議論し続けてきました。

50年,100年後の街を考える

先生は日本より20年前に地方分権が行われたフランスの都市計画に着目し,広域計画や住民参加の事例について研究してきました。「この国は,小さな都市でも自ら都市計画を実施しています。その理由を知りたくて留学もしたんです」と話します。フランスでは,都市計画に関する議論に,行政や専門家だけでなく住民が参加するシステムがあります。住民が自らの街に興味を持ち,住民の代表である市長や議員が積極的に都市計画に関わっているのです。

「一度建物を建てると,50年以上建替えないのが一般的です。だから都市計画を立てる際には,行政だけではなく,住民それぞれが50年後,100年後にどのような街にしたいかを考え,議論を進める必要があるのです」と先生は語ります。

街の歴史を活かし,発展させる

国土交通省で働いていた経験やフランス留学で得た知見を活かしながら,先生は,富山県の宇奈月温泉のまちづくりにも関与しています。もともと電力開発で栄え,企業の団体客で賑わっていた温泉地ですが,今ではそれも減ってしまいました。そこでどうすれば活気を取り戻せるか,学生とともに地域に入りこみ,住民と一緒にまちづくり活動をしています。現在考えているのが,電力開発というバックグラウンドを活かした「車を排除した,エコ温泉地」です。もうすぐ開業する北陸新幹線の駅近くに駐車場をつくり,そこから電気バスで送迎を行い,電気自動車だけが町中を通っていいことにするのです。「住民からは『車を排除すると人が来なくなる』という反対の声もありますが,街の未来をどうつくっていきたいのかを伝え,少しずつ住民からの理解も得られるようになってきました」。

街と出会い,地域住民とともに50年,100年後をどうつくるかを考える。そんな研究を,「結婚みたいなものですね」と先生は笑顔で話します。

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