未来の燃料のために、 植物の毒を研究する 梶山 慎一郎

未来の燃料のために、 植物の毒を研究する 梶山 慎一郎

私たちの社会は大量の石油の消費の上に成り立っています。しかし,石油が手に入らなくなったときに備え,ひとつのエネルギー源に頼りすぎず,他の燃料の研究を進めることが大切です。そのひとつが,中南米原産,高さ3〜8 mほどの低木「ジャトロファ」です。

食卓事情を圧迫しないジャトロファ

植物油を化学的に処理してつくられるバイオディーゼルは,車や飛行機の燃料として使えることがわかっています。しかし,食用につくられた油を燃料にすると,私たちの食卓から油がなくなってしまいます。そこで注目されているのが「ジャトロファ」という植物。親指の先ほどの大きさの種子には重量の30〜60%ほども油を含んでおり,絞り出して燃料源として使えるのです。油以外にも発がん作用のある毒も含まれているため食用にならないことから,食卓事情を圧迫する心配もありません。

ジャトロファの果実。梶山さんの研究で毒がなくなったとしても「まずくて食べられない」とのこと。

ジャトロファの果実。梶山さんの研究で毒がなくなったとしても「まずくて食べられない」とのこと。

毒の正体を突き止めろ

もともと植物がつくり出す物質の研究をしていた近畿大学の梶山慎一郎さんは,ジャトロファの毒に注目しました。「燃料として使うのであれば大規模栽培が必要になる。すると,そこで働く人の健康や土壌にも影響を及ぼすのではないか」と心配したのです。逆に毒性を弱めることができれば,バイオディーゼルの普及を後押しできると考えました。まず取りかかったのは,毒がどんな物質なのかを分光法という方法によって調べることでした。あらゆる化合物には,光(電磁波)を当てると化学結合に特有の信号が出るという特性があります。これによって得られた結合の情報から,パズルを組み立てるように化合物の全体像を明らかにしていきました。

先を見据え時間をかけて,役に立つ研究を

これまでの研究で,ジャトロファに含まれている毒には複数の種類があることがわかってきました。そのうちのひとつは構造も突き止められていますが,まだ詳細がわからないものもあります。梶山さんの研究によって構造がすべて明らかになれば,それが毒をつくるのに関わる遺伝子を特定する重要な手がかりになります。そして,その遺伝子を働かなくすることもできるはずです。「ただし,ジャトロファの遺伝子組換えはまだうまくできません。その技術を開発しているグループとも共同で研究を進めています」。先を見据えてじっくりと取り組んだ研究者たちの成果は,きっと未来の社会のエネルギー源確保につながるでしょう。(文・木下 啓二)