「その設定温度,本当に快適ですか?」あなたの工夫で、 快適な睡眠空間はつくれる-リジャル ホム・バハドゥル-
すべての動物は眠ります。人は,1日のおよそ4分の1にあたる時間をつまり,人生の4分の1を眠って過ごしているのです。あたたかい布団の中でぬくぬくと過ごす幸せなとき。そんな時間をもっと大事にするために「眠り」について考えてみませんか。
ぐっすり眠れる部屋とは,いったいどんな環境でしょうか。それを「温度と湿度」に注目して調べているのが,東京都市大学のリジャル ホム・バハドゥルさんです。大学の学生やその家族,研究でつながっている企業の方や知り合いなど,周りにいるたくさんの人に協力してもらってデータを集めています。
その設定温度,本当に快適ですか?
エネルギーの使用量を削減するために,冬の暖房は20℃,夏の冷房は28℃に設定することが推奨されています。しかし,それは私たちが本当に快適だと感じる温度なのでしょうか。リジャルさんは,寝るときの環境に着目し,実際の温度や湿度という「データ」と,その環境を人が実際にどう感じるかという「主観」をリンクさせて分析することによって,眠るときに快適な設定温度の基準値を出せるのではないかと研究を進めています。
居住者にやってもらうことは,自分の寝室に気温と湿度のセンサーを設置することと,布団に入る前と出た後に,毎日同じアンケートに答えることです。調査項目は,今の室温をどう感じているか,窓は開けているか,扇風機や冷暖房を使用しているか,その場合の設定温度は何度か,汗をかいているか,服装は何か,などです。
睡眠環境は,小さな工夫で変えられる
分析の結果,寝室の夏の快適温度は27±2℃であることをはじめ,寝室の気温・湿度と快適性の関係がわかり始めました。意外だったのは,今の睡眠環境を不快に感じているという人が少なかったこと。みなさん,空調を使ったり,着る服の種類や量を変えたりすることでうまく調整しているようです。「じつは,部屋の気温や湿度については,技術で解決できることはもうほとんどありません」とリジャルさん。個人の小さな工夫で,その空間を快適なものに変えることができるのです。
リジャルさんは,このデータ測定とアンケート調査を組み合わせた研究を2010年から寝室とリビングで行っています。この5年間で集めたデータは36,000申告以上。「こういった研究はサンプル数が勝負。データが増えれば,これまであいまいだった傾向がはっきりと見えるようになるのです」。リジャルさんの研究が進むことで,快適な睡眠空間をつくるためのヒントがさらに見つかるかもしれません。 (文・磯貝 里子)