宇宙のほうが、よく眠れる?山崎直子宇宙飛行士
「寝るのはぶっつけ本番なのです」と話すのは,今はその役目を終えているスペースシャトルに搭乗した日本人最後の宇宙飛行士である山崎直子さん。「宇宙」という特殊な環境での生活や業務の遂行に向けて,トレーニングや機器の操作シミュレーションなどを積み重ねていますが,「寝る練習」だけはできないからです。
地球の上空400 kmを秒速8 kmで飛ぶ国際宇宙ステーション(ISS)は,およそ90分で地球を1周します。つまり,1日に16回,昼と夜が45分おきにくり返しやってくるのです。そのため,日中の活動時間と睡眠時間は,人工照明のON/OFFで区別していますが,業務によっては,通常眠っている時間に行わないといけないこともあります。さらに,微小重力環境による影響で,地上とは寝るときの姿勢が異なること,宇宙滞在初期に発生しやすい「宇宙酔い」,閉ざされた空間で生活することによる精神的ストレスなど,宇宙飛行士の睡眠に悪影響を与える要因はたくさんあります。
しかし,ISS滞在中の宇宙飛行士の睡眠時の脳波を測定した結果,意外にも睡眠の構造や生体リズムに大きな変化は認められなかったという報告があります。宇宙飛行士は,ISS滞在中は日常的に運動をしている他,睡眠時間や作業時間などの生活スケジュールが前もって計画,管理されています。この規則正しい生活が,睡眠や生体リズムを正常に保っているのではないかと考えられているのです。他にも,宇宙医学の分野では,宇宙空間での睡眠や生体リズムに関する研究が進められています。その延長には,宇宙飛行士だけでなく,私たちをも快眠に導いてくれるヒントが待っているかもしれません。
(文・藤田 大悟)