肉体の限界を 超えるための、 新しい身体を作る 金岡克弥氏

肉体の限界を 超えるための、 新しい身体を作る 金岡克弥氏

マンマシンシナジーエフェクタズ株式会社 代表取締役社長
立命館大学 チェアプロフェッサー
金岡克弥

自動運転車や無人航空機、災害地での瓦礫撤去のための無人重機など、いま世界中で自律型ロボットの開発が進められている。そのトレンドの中、金岡氏はあえて「人が操縦する」ことにこだわり、スレーブロボットと連動するマスタロボットを操作することで、人が巨大なロボットを思い通りに操る、マスタスレーブ方式による制御方法を研究している。目指すのは、ロボットによる身体の拡張だ。

人間の脳と機械の体を力学的に繋げる

kanaoka2自律型ロボットに重要なのは、カメラや各種センサによって周囲の状況を解析し、最適な動作を計算、決定することだ。感知すべき対象が動かない瓦礫や、離れた位置にある自動車や自転車ならば、現在の技術で実現できている。しかし、怪我をした人や、卵のような壊れやすいものなど繊細な扱いが必要となる対象の場合、とたんに難しくなる。一方で私たちが手や腕でそれらを簡単に扱えるのは、臨機応変に適切な力の制御を行う能力を人間の脳が持つからだ。

金岡氏はこれに着目し、独自に開発したマスタスレーブ制御技術である「力順送型バイラテラル制御」によって、ロボットを操作者の身体の一部として認識させ、人間の身体制御能力を活用してロボットを高度に操るためのシステムを組んでいる。人間と機械との力学レベルでの相乗効果により、一方だけではできないことを実現する。それが金岡氏の哲学だ。

武道家が知る身体の使い方の妙

kanaoka3人間による操作にこだわる背景には、少林寺拳法四段という武道家としての経験がある。小さく細い体の老人が、若く屈強な弟子たちを軽々と投げる動画を見たことがある人も多いだろう。一流のスポーツ選手が加齢に伴う体力の低下を理由に引退を選ばざるをえないのとは対照的な光景だ。「身体には、“上手な動かし方”があるはずです」。私たちは普段それを意識していないが、機械の体を自らの身体の一部として操るようになれば、自然と意識が向くのではないだろうか。また、熟練者の動き方を記録、リバースエンジニアリングできるため、スキルの習熟を加速できるかもしれない。

究極の道具で新たなプラットフォームを目指す

「人間にとって根源的かつ究極の道具は、自らの体そのもの。これを拡張する新しい身体、外部脳ならぬ外部身体を作るのが目標です」。これは、いわゆるブレイン・マシン・インタフェース(BMI)技術による身体の拡張とは異なる。BMI のように、人間の身体の力学的動特性をスルーして脳と機械の体を直結させる方法では、人間の精妙かつ巧緻な身体制御能力を活かすことは難しいと金岡氏は考えているからだ。人間の身体の力学的動特性をスルーせず、人間の身体を介して脳と機械を繋ぐ技術であることが、金岡氏のシステムの強みである。

身体の拡張として動くマスタスレーブ装置の根幹となる制御技術で特許を押さえ、その上に新しい動力や素材などの要素技術を載せていけば、多様な用途のロボットが生まれてくるはずだ。そのプラットフォームの先には、大きな市場が見えてくるだろう。