海水と淡水を混ぜて電気をつくる 谷岡 明彦

海水と淡水を混ぜて電気をつくる 谷岡 明彦

再生可能なエネルギーとして、波力や潮力など海のもつエネルギーを使った発電が注目されています。今後は、それらに加え、一見エネルギーとは結びつきそうもない、海水の「塩辛さ」を利用してつくった電気も使えるようになるかもしれません。

副産物の濃縮海水を利用する

渇水地域では、海水からつくった淡水が飲み水や生活用水に使われています。海水中から水だけを濾こし取ると、2倍ほどに塩分が濃縮された「濃縮海水」が副産物としてつくられます。これをそのまま海に流すと生態系に影響があるため、処理済みの下水など淡水と混ぜてから海に流されています。東京工業大学の谷岡明彦さんは、そこに目をつけました。塩分濃度の違う2種類の液体を水分子だけが通る半透膜で仕切ると、濃度の薄い方から濃い方へと水分子が移動します。この濃度差による水の移動を、発電に使えないかと考えたのです。

濃度差を電気に変える

発電は、濃縮海水の流路の先にあるタービンを回すことで行います。濃縮海水は、ポンプにより一定の圧力で押し出され、流路を流れます。このとき、ポンプで水を押し出す仕事量は、圧力(p)×体積(V)で表されます。流路の途中で半透膜を経て淡水側からの水が加わることで、タービンを回す水量がV'だけ増えます。すると、水でタービンを回す仕事量は、p×(V+V')=pV+pV’。理論上は、増えたpV'分の発電ができるのです。谷岡さんが、海水の淡水化に使われる半透膜を用いて100tの濃縮海水で実証実験を行ったところ、実際に発電ができることがわかりました。

発電のしくみ

発電のしくみ

すべての河口が発電所になる日

現在は、膜を通過する水の流量の40%程度しか発電に利用できていません。「これを改良し、60%まで上げなければ実用化はできません。さらに80%まで上げられれば、通常の海水との濃度差でも発電が行えるようになります」と谷岡さん。そのために、水がより通りやすい膜の素材や発電効率のよいタービンの開発などが進められています。 河川が多い日本で、海水と淡水が混ざる河口すべてに施設を設置すれば、約8千世帯が1か月に使う電力を1日で得られると試算されています。電力供給源として、海が私たちの暮らしを支えてくれる日が近づいています。

取材協力:谷岡 明彦(たにおか あきひこ) 東京工業大学 名誉教授。
株式会社ゼタ 取締役副社長。 工学博士。

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