脇役の海産物にスポットライトをあてる 岸村 栄毅

脇役の海産物にスポットライトをあてる 岸村 栄毅

スーパーのお魚コーナーに並ぶ魚介類、あなたは何種類思い浮かびますか。アジ、マグロ、イカ、タコ……。じつは、日本の全漁獲量の9割はたった28種類の魚介類で占められています。そんな主役たちの脇で、見向きもされず捨てられていく海産物の価値が見直されようとしています。

ヒトデ、何かに使えませんか?

北海道大学の岸村栄毅さんが調査をしている道東の漁港では、年間でおよそ1万5000tものヒトデが獲られています。その理由は、北海道の名産であるホタテの稚貝を守るためです。

ホタテの稚貝は、水温や水中の酸素量などの環境変化の影響を受けやすく、天然の環境下では数が激減してしまいます。そのため、人が管理しながら3~5cmまで育てた稚貝を海に放流する「種苗放流」が行われています。

しかし、放流した後も安全というわけではありません。天敵のヒトデがねらっているからです。そこで、放流前には、周辺のヒトデを捕まえてホタテが生き残りやすい環境を人の手により整えています。しかし、ヒトデはほとんど食用にされないため、そのまま捨てられ廃棄物になってしまうだけの存在でした。

そこで岸村さんは、この利用されていない大量の資源を活用できないかと考えたのです。

内臓から見つけた有用成分トリプシン

ヒトデは、ウニなどと同じ棘皮動物で、骨格と内臓をもっています。骨格の成分の炭酸カルシウムは作物の栽培に有用で、一部のヒトデは農業用の肥料として利用されています。

しかし、未利用のヒトデがなくなったわけではありません。さらに有効活用できないかと、ヒトデに含まれる成分が研究されています。岸村さんは、ヒトデの内臓に注目して研究し、トリプシンと呼ばれるタンパク質分解酵素を取り出すことに成功したのです。

トリプシンは、さまざまな生物が共通して分泌する酵素で、消化を助ける役割をしています。じつは生物から取り出したトリプシンは、試薬として研究室で使われたり、食品加工の際に食品中のタンパク質を分解して味や物性を改良するために使われたりしています。

これまで利用されていたウシやブタなど哺乳動物由来のトリプシンは、働くためにカルシウムイオンを必要とします。ところが、ヒトデのトリプシンの性質を調べてみると、カルシウムイオンがなくても働くことができ、さらに酵素の最適温度や温度安定性も低いことがわかったのです。他の物質を添加したり温度を上げたりする必要がなく、加熱により容易に活性を低下できるため、低温で行われる食品製造への利用など、いろいろな場面で扱いやすいのです。

ゴミではなく資源かもしれない

岸村さんはヒトデだけではなく、キャビアとして食べられる卵を取り出して残ったチョウザメの皮や骨の部分や、養殖コンブのロープに繁茂してしまう「ダルス」と呼ばれる赤い海藻など、廃棄 物となっている海の資源を活用するための研究をしています。

それらの生きものがもつからだの成分は、ヒトと共通するものや海洋生物独特のものなどさまざま。研究によりその価値を見出すこと ができれば、これまでは廃棄されてしまっていたものも資源に変えることができるはずです。 海には、わかっているだけで約25万種類の生きものがいるといわれています。私たちはまだ、海の生きもののほんの一面しか知らないのではないでしょうか。

取材協力:岸村栄毅(きしむらひでき)北海道大学大学院水産科学研究院海洋応用生命科学部門准教授。水産科学博士。未利用海産生物の酵素や脂質の特性の解明と応用、水産廃棄物中の有用生物の分離・精製技術の開発を研究している。

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