リーンスタートアップはテックベンチャーに有効なのでしょうか?
リーンスタートアップ手法の安易な適用は危険かもしれない
かつてトヨタのカイゼンと言われていたものが、シリコンバレー発の起業指南術「リーンスタートアップ」方式となって流行っています。それが日本にも伝わって、「リーンスタートアップ」の発想にもとづく起業家教育プログラムも増えています。この記事を開いたあなたは、きっと聞いたことがあると思います。
では、私たちが運営する起業家支援プラットフォーム「TECH PLANTER」でフォーカスしているような、ものづくり、ロボティクス、バイオ、ヘルスケア、食、農などの分野のテックベンチャーでも役に立つのでしょうか。シリコンバレーのネットベンチャーと、TECH PLANTERのテックベンチャーが立ち向かう課題は違う部分があって、そのわずかな違いから、安易な適用は危険かもしれないと思いました。
リーンスタートアップとは「事前にあまり計画せず、少しずつ素早く改善を繰り返すことを重視する」
エリック・リースの本自体はとてもいい本だと私は思います。リーンスタートアップを詳しく解説しており、トヨタのカイゼンをベースにして「構築―計測―学習」サイクルが重要だと解いています。スタートアップは不確実なことに直面するので、計画を念入りにするよりも、早く失敗して早く学習しなおせ、と喝破したのは割と気に入っています。
私は、この考え方はとくにwebサービスなんかのように「コードを書き換えたらすぐ別バージョンが作れる」類のサービスや製品にはとても良く当てはまると思います。PVとか、どうでもいい数値をKPIにするな!とか、同じ期間のなかでどれだけ作ったかよりもどれだけ学習したかのほうが大事、という説明には胸を打たれたものです。
テックベンチャーには「無策の場合行き詰まる」要素がネットベンチャーより多い
しかし、テックベンチャーが取り組むフィジカルな製品やサービスは、取り返しのつきにくい要素が多い。ハードウェアで言えば材料選定や部品の個数、金型の設計など、3Dプリントでの付加製造技術とはワケが違うのです。学習してやり直すには時間もお金も掛かり過ぎる。
バイオテクでは特許をどう押さえるかが、ものすごいインパクトを持つ。ノウハウにするか、特許にするか、はやり直しが効きにくい。
何より巨額の投資が必要な事業を考えていた時に、計画がない起業家は信頼されるだろうか。カネの出し手は回収計画があるのに、起業家が「計画がありませんがお金ください。ドンドン修正しながらやります!」という考え方だったら。私は信頼されるとは思えないのです。
リーンスタートアップの対極の発想
そこで、リーンスタートアップの対極となる発想も登場しています。ピーターティールという投資家が書いた「ゼロトゥワン」という本のなかでは、圧倒的な技術で独占事業を築け、という考え方が紹介されています。
かっこいい横文字はありませんが、ゼロイチの事業と呼べる、現在世の中に存在しない事業なのでしょう。どこでもドアやタイムマシン級のアイデアを指している、と私は理解しています。
ではどういう人が他に当てはまるでしょうか。研究者で言えば、「私の理想の世界を実現」「世界を塗り替えるぜ!」みたいなパターンで考えている人や「まだ立ち上がっていない市場を狙うことになります」という発想の人は、完全にこっち側です。
ゼロイチの独占事業を立ち上げるには「競合とは大きく違う、もしくはいないところで圧倒的に独占できる事業を事前に計画し、それに賭けろ」
ピーターティールは圧倒的な技術を持つベンチャーなら計画を持ってやったほうがいいと書いていました。「ゼロトゥワン」のなかでは競合のいない、独占できそうな分野で、他所とは10倍以上違う技術を開発し、そこに賭けろ!という趣旨のことを書いています。
市場が小さい場合にも、こちらの考え方が有効です。また、世の中が未成熟で、まだ市場が立ち上がっていないときにも有効です。市場がほ
とんど立ち上がっていないならば、あなたしか気づいていない独占できる事業があることなのではないでしょうか。
すなわち、まず小さく独占して、その市場の顧客や売上を足がかりにして、より大きな市場を狙う計画をたてて、一心不乱に実行することができるか、という勝負をするわけですね。
投資家や取引を希望する事業会社は、あなたがどれぐらい「賭けているか」を注目するのでしょう。
あなたはどちらのやり方が成功すると思いますか?
もしかして、ゼロイチを目指す起業家を応援したいですか?仲間になりたいと思っていませんか。よかったらTECH PLANTERのイベントを見に来てください。http://techplanter.com/entry/
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