研究者同士を結ぶ「潤滑油」となり、 研究を加速させたい 岩間 悦郎
岩間悦郎さんは東京農工大学でLiイオン電池やキャパシタに代表される蓄電デバイスを新たな負極材料の合成を通して高性能化する研究に取り組んでいる。彼は、同大学の国際共同研究拠点グローバルイノベーション機構の一員として、著名な外国人研究者を招聘した共同研究も手がけている。自分自身も海外での経験を通じて大きく価値観が変わった、という岩間さんは、今、国際的な研究が行われている研究室で、異なる国の研究者同士の「潤滑油」となり、学生が新しい気づきを持つきっかけにしたいと、その環境づくりに取り組んでいる。
価値観を変えたスイスへの留学
岩間さんの研究はLiイオン電池やキャパシタの負極材料をベースに、高速で充放電反応が可能な材料を合成し、次世代蓄電デバイスを構築することだ。エネルギー開発の最先端を担うこの研究に、魅力を感じている。しかし、元々高校時代は文系志望で、研究者の道に進むとは考えていなかった。キャリアを大きく方向転換したのは、高校時代のスイス留学のとき。将来語学を使って仕事をしたいと考えて1年間滞在したスイスで、大きなカルチャーショックを受けた。そこには、何カ国語も話せる人がたくさんいたのだ。この人たちと語学力で勝負するのは難しいと感じた岩間さんは、語学を「仕事」にするのではなく、「ツール」として扱う、という考えに改めた。更に、高校から大学、就職という、日本では大半の人が歩む道から逸れたキャリアを、当たり前のように受け入れる社会にも驚いた。専門学校を卒業して就職し、大学出身者と同等以上のキャリアを築く人や、学校を卒業後、様々なことを経験して、30歳から定職をスタートする人が多くいたのだ。「スタートはいつからでも遅くない」この経験から改めて将来を考え直し、理系に転向して「社会に役立つものをつくろう」。という想いに行き着いた。
単純な結果や失敗から見えてくる研究の魅力
こうして化学科に進んだ岩間さんだったが、研究室に配属した学部4年生の始めは、研究に魅力を感じることができなかったという。「もともと物理が嫌いだからという曖昧な理由で化学科を選んでしまったから、研究の目標や意義が見えてなかったのでしょうね」。しかし、当時博士課程の先輩から、一見単純に見える実験結果や失敗からでも、考え方を変えることで意味のある解釈を導き出すことができるという、研究に対する基本姿勢・研究の面白みを教えてもらえたお陰で、夢中になることができた。「蓄電デバイスの研究が今後伸びていくことが見える中、ずっとこの研究に携わっていたい」という想いと、スイス留学で感じた「キャリアを長い目で見て考えても良い」という考え方が重なり、博士課程への進学を決意する。「自分はどこでもどんな形でも暮らしていける、という自信が留学して身についた。だったら好きなことをやって、ダメだ!と思ったときに、そこで方向転換すればいいかなと開き直れました」。
日本でも自分の強みを活かして研究に貢献する
博士号取得後、「ずっと海外で働きたいと考えていた」という岩間さんに、再びチャンスが舞い込んだ。博士課程時代に共同研究をしたフランスの研究室から、研究員として誘われたのだ。「海外の研究者が上下関係に縛られず、研究についてディベートできる環境に憧れていました」。語学力を活かしてフランス語をマスターし、現地の研究ネットワークや共同研究先など、様々な交流の機会をつくっていった。「海外で大事なのは、語学力以前に、何もない状態で信頼関係をつくれるか。とことん相手の価値観や背景を理解しようとする姿勢が必要なのだと思います」。任期後、日本に帰国することを決め、所属したのは、東京農工大学でグローバルイノベーション機構のチームに選抜された研究室だった。活動内容は、キャパシタの研究が盛んなフランスから研究者を招聘した共同研究と、グローバル理系人材の育成である。「海外教授陣の考えも、学生がやりたいことも互いに上手く伝わらない時がある。様々な価値観に触れた自分だからこそ、両者の良いところを引き出し、チームと共に自分も成長したいですね」。コミュニケーションを自分の強みに、潤滑油となる岩間さんの存在は、このプログラムを加速させていくだろう。
(文 中島翔太)
岩間 悦郎さん プロフィール
東京農工大学応用化学専攻博士課程修了 博士(工学)
東京農工大学工学研究院 応用化学部門 助教
グローバルイノベーションリサーチ(GIR)キャパシタチーム コーディネーター