新材料を生み出す「周期表」発の発想術 藪内直明

新材料を生み出す「周期表」発の発想術 藪内直明

次世代のリチウムイオン電池開発においては、負極材料に比べ正極材料の開発は遅れていた。
東京電機大学の藪内直明さんは、新規の正極材料の合成を成功させ、大容量化に成功したと発表した。
どうやって新規正極材料開発を成功させたのだろうか。その発想法を聞いた。

人がやっていない元素を探す

 先行する材料を超えられる、ハイリスク・ハイリターンな研究とはどうやって発想するのだろうか。
藪内さんは、既存の電気自動車用のリチウムイオン電池で広く用いられているスピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)などを高機能化すると考えるのではなく、まったくの新材料研究に取り組むことを志した。
そこで立ち返ったのはリチウム−遷移金属−酸素(Li-Me-O)という組み合わせの何から変えていくか、という順番だった。
「まず、大容量化のために試料中のLiを増やすことが必要です。
そのために、遷移金属の価数を上げなくてはいけない。
そこで、他人があまりやっていない遷移金属元素の目星をつけるため、周期表を見ながら考えたのです」。
これまでの正極材料では、Co、Ni、Mn、Fe、Ruなどが先行していた。それらの元素の左側をみると価数の高いVやMo、Nbなどがある。
5価以上の金属にすれば、Liの量を増やすことができる。VやMoを差し置いて、藪内先生が選んだのはNbだった。

見向きされなかった理由を逆手にとる

 Li-Me-Oの系では遷移元素は酸化還元反応を行い、電子の脱挿入を行う元素と通常考えられている。
そして、Nbは酸化還元反応電位が低く、むしろ負極材料としての印象が強い元素といわれてきた。
そのため正極材料に使ったときの性質はまったくわかっていなかった。
そうであれば逆にチャンスがあると考えた藪内さんらは、LiNbO3を使った実験を試みるが、電気伝導性を示さなかった。
だが、藪内さんは諦めず、Nbを一部だけ別の遷移金属で置換してあげる方法を考えた。Co、Ni、Fe、Mnと置換する実験を試したところ、Mnで置換した場合最も高い性能を引き出せることをわずか1ヶ月以内につきとめることができた。

実験データによる裏付けを1年分先行させる

 こうして新しく開発した正極材料Li1.3Nb0.3Mn0.4O2だが、なぜLiの脱挿入ができているのか、当初ははっきりしていなかった。
しかし、数々の合成、分析のプロを交えた共同研究により、NbやMnが酸化還元反応をしているのではなく、O(酸素)が酸化還元反応しているという新規な反応メカニズムも明らかにすることができた。
ここまでわかるのに費やした月日は1年。「周期表は10年ずっと眺めていますが、同じものを世界中の人が見ている。
発想だけでは重なる可能性がある。だから成果を発表するときも、1年分は実験が先行していないと厳しいと感じている」と藪内さんは述べる。
新成果を出すには、「発想力」とそれを様々な研究者を巻き込んで形にしていく「プロデュース力」の掛け算、というのが藪内さんの見立てだ。