設立1年目のベンチャーが大企業と連携できた理由 株式会社フォトシンス

設立1年目のベンチャーが大企業と連携できた理由 株式会社フォトシンス

(左)三井不動産株式会社 ビルディング本部法人営業統括部 川路武さん
(中央)日本ユニシス株式会社 総合マーケティング部 OpenInnovation推進室 田中美穂さん
(右)株式会社フォトシンス 代表取締役 河瀬航大さん

第2回テックプラングランプリ出場後、瞬く間に三井不動産、日本ユニシスとの連携による実証実験の発表までこぎつけた株式会社フォトシンス。1号製品である、鍵ロボット「Akerun」を発表した2014年9月から発表まで9か月であった。彼らはどうやってテクノロジーを武器に、大企業との連携に持って行くことができたのか。今やとても仲の良い3人に、日本橋のコワーキングスペース「CLIPニホンバシ」にて話を伺った

──まず三井不動産の川路様と日本ユニシスの田中さんにお伺いします。普段はどのようなお仕事をしてますか

川路 私は三井不動産のなかでも新規事業を担当しています。柏の葉の初期のまちづくりやここclipニホンバシの立ち上げなんかも担当してきました。

田中 私はインキュベーション部門においてオープンイノベーション推進を担当しています。弊社があらゆる業態のお客様を抱える中、他企業・ベンチャーさんと協業することで、スピーディーに新しい価値を提供していくことに取り組んでいます。

──どうやって3社が知り合ったのでしょうか

川路 三井不動産がCLIPニホンバシというコワーキングスペースをつくったのが2014年春ごろで、そこに日本ユニシスの田中さんによく出入りしてもらっていました。そこで「素敵な方がいるので紹介させて」と言われたのが最初でした。

田中 たしか昨年末にClipニホンバシで開催した、自社のビジネスを持ち込んで参加者みんなで考える”モチコミnight”イベントで、三井不動産様がテナント企業への新しい価値提供について意見を求められた回があり、イベント終了後も、ビルの空室を活用したビジネスモデルについて遅くまでお酒片手にブレストが弾み、受付設置コストにIoT(スマートロック)の活用を持ちかけました。

川路 ご紹介いただき、その後、ちょうどこの会議室で話をしたのですが、河瀬さんのやりたいことと我々が考えていたの方向性が合致したんです。

──田中さんがフォトシンスを知ったのはいつでしたか

田中 昨年10月に開催されたパートナー企業のグローバルスタートアップのピッチイベントです。IT系のピッチイベントではいわゆるB2C(消費者に対して直接サービス提供する)のサービスが多いのですが、私が探していたのは、弊社やお客様企業のサービスと組合せることでB2Bサービスに組み上げられるものでした。三井不動産様の”どこでもオフィス”に、フォトシンスはイメージにぴったりでした。

──従来、大企業とベンチャーが提携するまでには、いろんな障害があると言われていたがそれらはどうやって乗り越えたのでしょうか

川路 代表的なのは言葉が噛み合わないというものでしょうね。今回のフォトシンスとの一件は、永年の課題であった空室利用問題が前進するかもしれない、という期待が持てたことと、「前例主義を突破しよう」という機運が社内にあったことです。スマートロックは不動産業界でも誰かが必ず手を付けると思われていたので、お話が持ち込まれたタイミングでの先進性は本当に大事でした。

田中 他検討では、“大企業にはのみこまれてしまいそうで怖い”と言われてしまったこともありますが、共創するベクトルや将来のビジネス拡大イメージ、一緒だからこそできることなどについて、ストレートに会話するようにしています。実は、今年1月ラスベガスのCES会場で、河瀬さんが急に視察に来ることがわかり、その場でCMOに紹介しました。今は、その役員室にもAkerunが付いています。弊社でも従来のパートナー企業基準については、企業規模や設立からの沿革など、調査事項もあり厳しいものですが、今は「すばらしい技術・ビジネスモデルをもつ企業は、積極的に付き合っていかないと社会の変革スピードに間に合わない」という風土に変わりつつあります。

川路 といっても、河瀬さんの場合は最初からビジネスとしても優れた提案でしたし、人柄も素晴らしく、違和感なくお話ができたのがよかったです。

──河瀬さん側で何か意識的にやっていたことがあれば教えてください

河瀬 鍵ロボットの技術の説明に終始しないよう、どの業界でどんな風に使えるかというのをたくさん考えておきました。Akerunの着想自体は、仲間内の飲み会で「鍵をなくしてしまった」みたいな話からはじまって、家の鍵から解放されたい!みたいなことになったのがきっかけです。しかし、個人宅向けの話だけしていても企業のお客さんはつかない。そこで空室利用や、賃貸不動産の鍵の受け渡し、ロッカー、会社のセキュリティなど色んな場面を考えて、数字も調べました。

──用途の想像が具体的に広げてあるのですね。

河瀬 今回の連携の話の最初のころに、「何がしたいの?」みたいなところも聞いてくれるし、積極的に社内外に紹介してもらえていることがすごくありがたいですね。今のテクノロジーだけじゃなく、ロボットを通じて目指したいこと全般についてお話することができました。

川路 それってすごく大事で「夢もある、ビジネスにもなる」という状態が評価される。

田中 企業におけるオープンイノベーションでは、”足りないピースをさがす”ことが多いですが、今回は、テナントスベース・IoT(Akerun)活用、当社のB2E向けのプラットフォーム構築技術と、それぞれが得意なものを持ち、河瀬さんからも「ただの鍵じゃないんです」とビジネスの広がりを熱く語ってもらい、目指す夢を共有できるベンチャーさんとして会社を説得できたことがスタートにつながったのだと思っています。(聞き手・構成 篠澤裕介)

株式会社フォトシンス