今日も明日も 「世界初」に出会う人でいたい 井上浄
井上浄 北里大学理学部助教
2006 年3月、博士課程修了。博士(薬学)になると同時に、大学の助手となった。研究が好きで、今も「仕事」として研究をしている感覚はない。「ただし、学生の時も他人まかせの『学生気分』で研究をしていたつもりもありません」。
未来の自分像を描く
いつでも自分のやりたいことに正直に向かい合う。大学に入った頃は授業の記憶があまりないくらい、バンドと車に没頭した。研究も、井上さんの中ではバンドと車
と同じ。「好き」という気持ちに明確な理由はない。 「研究が好き」という純粋な気持ちは、博士課程後期に進学する多くの人に共通のものだ。この気持ちを持ち続け、充実した研究を続けるためには、博士号取得後のポストは重要な位置を占める。「修士の学生の時から博士号を取る。しかも自分の力で、自分のアイディアをたくさん入れ込んだ博士論文が書けないようでは、一流の研究者になれないと思っていた」 助手のポストを得て、着実なキャリアを歩むように見える井上さんはこうi 言う。キャリアに対する明確な戦略があったわけではない。だが、「なりたい自分」像は修士学生の時から明確だった。 修士1年の冬から、友人と研究会(勉強会)のようなものを始め、他大学で行われている様々な研究を調べた。そして、実際に友人の伝手を頼りに他大学の研究室見学を繰り返したという。いろんな人と話し、研究環境
や研究へのスタンスを学ぶことができた。その中で、面白い先生や、目をきらきらさせている研究者に出会い、ああなりたいという研究者像を積み重ねてきた。
発想を磨くことに徹する
研究者という職業に憧れていたのではなく、研究を「バリバリ」して生きることを目指してきた。そのために最も重要で、自分の力の源となっているのが、「発想の鍛錬」だという。「よいデータを出すことも、技術を学ぶことも大切だけれども、とにかくこれまで、発想を磨くことに力を入れてきた」。 具体的には、自分で考えたアイディアを先生方にぶつける。そして、厳しい意見や、時にやさしい意見をもらう。繰り返し、繰り返しアイディアをぶつけてみたが、修士の時は自分の意見がなかなか通らなかった。それでも、自分でノートを作って、アイディアを書き連ねた。現在の研究の基礎となった「免疫賦活化作用をもつオリゴDNAの経皮投与による免疫応答の研究」はこのアイディアの中から生まれている。自分の考えと生命現象が一致した時の感覚が研究へと引き込む。
毎日生まれる新事実
自分のアイディアを試すひとつひとつの実験からは、いつも「世界中で初めての結果」が明らかになる。それを、自分の手で、自分の目で確かめられることが研究の醍醐味だという。常にポジティブな結果ばかりではないが、「こうでなければ、きっとこうだ」と次のアイディアが見える時もある。 時には何日も悩み、大学への行き帰りの車中も、風呂でも便所でも研究のことを考え、「この手があったじゃないか!」と突然ひらめくこともある。論文を調べたい、あの時の結果はどうだったかと大学のパソコンがとてつもなく恋しくなることもある。調子の良い時は、朝が来るのが待ち遠しい。 「研究は、毎日新しい事実が明らかになる。毎日『世界初』に出会えるから、楽しくて仕方ない」研究の虜になる理由はここにある。「このワクワクを味わうために、常に自分の発想で挑戦することが大切だ」。 今は、昨年生まれた長男と奥さんと過ごす休日、家族とともにリラックスして過ごす時間が大切だと言う。これが新たなアイディアを生む原動力となるのだ。修士学生のころに描いた研究者像は、今の井上さんの軸となっている。これからも、世界初を追い続ける。