国際的なリーダーシップを発揮する プロフェッショナルを目指せ! 千葉 一裕

国際的なリーダーシップを発揮する プロフェッショナルを目指せ! 千葉 一裕

1983年、キユーピー株式会社研究所に研究員として入社。1990年より東京農工大学農学部へ。1999年〜2000年、アメリカ合衆国ワシントン大学(セントルイス)で研究。2004年からは現職、東京農工大学大学院・教授に就任。農学博士。
大きなチャンスはいつの時代でも「与えられる」ものではなく、「自ら掴み取る」ものだ。チャレンジすべきことは常に自分の目の前に存在しているにもかかわらず、それを見過ごしている。今求められているのは、研究の世界でも、産業界でも、そんなチャンスを見抜いて行動できるリーダーである。さらにボーダレス化した現代では、分野・文化の融合するチームをけん引して社会に新しい価値を提供する、そんな力も必要だ。

実体験を反映したプログラム

「当時は、科学的な探求をもっとしてみたいと強く思い、大学に戻ったのです」。企業から大学に活動の場を移した20年以上前を思い出して、千葉先生は語り始めた。企業にいた頃は、目の前の仕事に一生懸命取り組み、充実した毎日であった。しかしその一方で、企業とは別の世界ではあるが、自分がどうしてもやりたいと思ったものに挑戦したいと考えるようになった。そして冒頭の言葉につながる。あえて何の実績もない場所に身を置き、さらなる成長を目指したのだ。「大学で研究を始めた最初の3年間くらいは、学会に行っても誰も自分の話に耳を傾けてはくれませんでした」。自分を信じ、オリジナリティーを追求し、典型的な研究アプローチを避けた結果、挫折を味わうことになった。それでも心は折れなかった。いつかこのチャレンジが実を結ぶときがくる、そう自分を奮い立たせた。決してコミュニケーションが得意だったわけではないが国際学会の懇親会では、あえて日本人のいないテーブルを見つけて自分を売り込んだ。その結果、学会の招待、遂にはアメリカ留学の切符を手に入れたのだ。そうやって道を切り開いた千葉先生が今の日本の大学院生に足りないことを分析する。「失敗から学ぶ機会や、あえて自分自身に試練を課す機会が少ないです」。自らの経験を通して、次のリーダーが経ておくべきだと考える体験を盛り込んで生み出したのが「グリーン・クリーン食料生産を支える実践科学リーディング大学院」の人材育成プログラムだ。

分野を超えて活躍できる人材となれ

この人材育成プログラムでは化石燃料に依存しない食料生産の時代を切り拓く人材を養成することを目的としている。そして達成目標として大きく分けて3つの力を定義している。
• 高度な実践型研究人材として、食料、環境、エネルギーの相互不可分の関係を理解し、人類生存の究極課題に熱意を持って挑戦できる
• 複合領域に跨がる広い専門分野の人材を統率してチームを作り、コミュニケーション力をもって国際社会で活躍できる
• 目標実現に向かって自らの洞察力で見出した課題について、強い意志で挑戦・実行・完遂できるこの目標を見据え、育成プログラムには農学系の学生が工学系の科目を学ぶ(逆もまた然り)基礎専門科目や、国際的な活動を視野に入れて英語でのプレゼンテーションや論文作成のスキルを学ぶ国際研修などがある。中でも特徴的なのは研究成果を社会で役立つイノベーション創出へとつなげることを目的としたイノベーション科目である。実際に企業が抱える問題に対して解決策を考え提案する活動などを通じて、社会のニーズ・価値観を捉え、チームで問題解決を行う力を育成する狙いだ。それ以外にも自分の専門分野を高校生にもわかるように噛み砕いて説明する研修など、ユニークな実
践型プログラムが並ぶ。「与えられたチャンスを掴み取るように、果敢にチャレンジをしてほしい」。そう千葉先生は語る。

課題を見出し、強い意志で問題解決に挑む

プログラムをスタートさせて数か月。「先生、国際学会で発表をすることにしました」、「やりたいことを実現するために資金を調達します」。控え目に見えたリーディング大学院入学者たちから、そんな声が聞こえてくるようになってきた。「プログラムの効果がすでに出始めている」。千葉先生は徐々に逞しくなる学生たちを見守る。中でも、とりわけ多くの学生が一緒に取り組もうとしている自発的な活動がある。学生たちがこのプログラムの魅力を自ら伝えたいとアジアの国々へ出向くことを決めた。アジアのトップ大学が集まるフォーラムで自分たちの活動を伝え、アジア全体から一緒に学ぶ学生と出会う機会を作るのだ。新時代の食料生産法を開発するという課題に対して学生達が自ら考え出した解決策の一歩目である。与えられるプログラムの一環ではなく、学生達が自発的に創り出した舞台だ。この人材育成で目指している、課題を自ら考え出し強い意志で実現すること、加えて、チームで問題解決に取り組むという力が身につき始めている。「アカデミアでも企業でも、リーダーに求められる力は一緒です」。両方の世界で成果を出してきた千葉先生の育成方針が垣間見える。東京農工大で新たなリーダー人材たちが、その芽を育み始めている。

グリーン・クリーン食料生産を支える実践科学リーディング大学院
http://www.tuat.ac.jp/~leading/