柱をたて、異分野の言語を磨く 秋山 泰
次世代シークエンサーや質量分析装置をはじめ、生命科学研究に用いる計測機器は近年めまぐるしい発展を遂げた。一方で、これらの機器から得られた膨大な生命情報を活用できる人材の育成は急務となっている。東京工業大学の情報生命博士教育院では、生命科学と情報科学の双方の分野から、生命情報を研究に活用し、多分野で活躍できる博士を育てようとしている。
情報生命博士教育院院長 秋山泰 教授
私たちは15年ほど前、情報科学が生命科学と密接に関わりはじめた当初から、少数精鋭の生命科学と情報科学のエキスパートを育てようとしてきました。しかし、ここに大きな反省があります。多くの人材が国内の企業や大学では就職が叶わず、みな海外に進出していきました。当時、情報生命学は将来必要な分野であっても現状の業務で活かすことができなかったので、既存の分野のコミュニティにはなじまなかったのでしょう。そこで、私たちはいずれかの分野の高い専門性を持ち、もう一方の分野の言語を理解する人材の輩出を目指すことにしました。彼らがそれぞれの分野で多数活躍することで、学際的な人材を社会が受け入れる素地をつくりたかったのです。こうしてΓ(ガンマ)型人材の育成を掲げた本プログラムが生まれたのです。
カリキュラムの中では、生物学、情報学の基盤的な知識の習得をしつつ、イメージングやシークエンサーを用いた実践演習を通して情報生命の現場を学びます。企業と交流できる機会、海外へ留学する機会も多く用意しています。プログラムを開始してから2年弱ですが、演習ではお互いがわからないことを助けあいながら補完していく様子が見られたり、異分野の人と話すことを楽しむ学生が増えたように思います。
毎日の授業を消化しながら日々の研究も他の学生に負けずに行うことは学生にとっては大きな負担かもしれませんが、専門+αのことを身につける体力と知力、ここで得た仲間は、世界で活躍する研究者になるために必須と信じています。彼らがそれぞれの専門で活躍した後も仲間と連絡を取り合える関係を築き、一緒に新しい分野を切り開いていってくれることを願っています。
生命理工学研究科 生物プロセス専攻 博士後期課程1年 野原健太君
学部生から超好熱菌の研究を行っていました。自分の専門だけを考え続けるより、+αの知識や力を身につけたほうが研究者としても良いアイデアが生まれてくる気がして、このプログラムに参加しました。毎日の授業では課題も多く、研究をしながら違うことを考えるのはとても大変でしたが、今はそれがあることで
研究を効率よく進める上での良いリズムをつくれています。
このコースの人たちは分野が違っても科学が好きという共通点を持っています。だから異なる専門同士でも一生懸命理解しようとする空気があり、異なる視
点から研究を議論できることで刺激をもらっています。英語がすぐそばにある環境に置かれて、ラボの留学生たちとも英語で深い議論ができるようになってきま
した。来年は海外に留学し、専門とは少し違うテーマを研究してくるつもりです。