『WIRED』誌 特別企画!!「アグリプレナーたちと語る、これからの農業」スペシャルトークセッション

『WIRED』誌 特別企画!!「アグリプレナーたちと語る、これからの農業」スペシャルトークセッション

若者よ、農業を目指せ!

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右から順に、司会進行の竹内大『WIRED』誌副編集長、植物工場ブームの仕掛け人である株式会社リバネスの丸幸弘CEO、農業事業者へのコンサルティングを行うNPO 法人イノプレックスの藤本真狩代表理事、無農薬有機栽培にこだわる「三つ豆ファーム」の山木幸介代表、ベトナムでの長期インターンを経験し今秋のインドでの起農を目指す高井佑輔氏。

 

アグリプレナーという言葉を初めて耳にする人も多いのではないだろうか。それもそのはず、農業を表す「アグリカルチャー」と起業家を表す「アントレプレナー」を合わせた“起農家”という意味の新しい言葉なのだ。このトークイベントに集まった4人のアグリプレナーは、有機農家から植物工場の火付け役、そして、インドで起農を計画している者までバラエティに富んでいる。しかし偶然にも、大学院での研究経験という共通のバックグラウンドをもっている。そんな彼らが今の農業に何を感じ、どんな未来を見据えているのか、熱く語った内容の一部を紹介したい。

―研究を経験した後に起農されたわけですが、農業の世界に入って苦労したことや、そこで感じたことを教えてください。

山木:農業をはじめたのは、大学院で自分には研究は向いてないと感じたからでした。長野のレタス農家で研修後、仲間と一緒に独立したのですが、野菜を作ることはできても販売がうまくいかず、一年目の売上が3 人で150万円。よく生きていたなと思います(笑)。5 年目くらいになると経験が蓄積され、何がいつ、どのくらい生産できるのか見通しがたつようになり、営業しやすくなりました。売り上げが上向いてきたのはそこからですね。

高井:今年の秋にインドのバンガロールで起農を予定しているのですが、じつは、ベトナムでトマト栽培の立ち上げを経験しています。実験が大好きだったので栽培方法をいろいろと試行錯誤してみました。でも研究室とは畑は違う。結果がでるまでに時間がかかり、野菜の出来の振れ幅も大きい。そいう点が難しいなと感じました。

:植物工場の研究を始めたのが2005 年。空き工場を利用した試験栽培がうまく行き、無農薬で大切に育てた野菜だからこれはいける、と思っていたのですがまったく売れない。お客さんの声を聞くと、植物工場の野菜はどうやって作られるかわからないから不安だと言うんですね。そこで僕が考えたのは直接お客様と会話をすること。東京の丸ビルにあるサブウェイさんの店舗に植物工場を設置して、栽培している様子をすべて公開しました。そして収穫した野菜をサンドイッチに挟んで実際に食べてもらったんです。すると、200 を超えるメディアが取り上げてくれました。見える化をしたことで、安心・安全というメリットが消費者に伝わり現在のブームにつながったのです。

―世界という視点に立つと、日本の農業はどのように見えるのでしょうか。

藤本:インドでハウス栽培の立ち上げに携わったのですが、その中で日本人農家の凄さを感じる出来事がありました。そこでは、導入コストの高い先端設備を導入しても採算が合わないため、自作できるような簡易的なハウスが必要とされていました。そのときに千葉県の農家の方に協力していただいたのですが、普段から、ホームセンターで買った素材を使って農業資材を自作しているので、ハウス組み立てのノウハウをもっているんです。こうした優れた人材は日本の貴重な財産ですね。
また、日本と世界の違いを感じた例があるのでお話します。イチゴの“あまおう”の試食会をインドで開いたことがあるのですが、なんと「甘くない」と言うんです。どうやら日本人とインドの方々とでは味覚が違うようなんです。日本人の味覚は繊細なので、あまおうの甘さを強く感じることができる。それならばということで、さほど甘くはないけれど栽培が容易な品種に切り替えて栽培したところ、現地の人に喜んでもらうことができました。生産設備の面でもいえることですが、日本の常識にとらわれず、現場のニーズに合わせて試行錯誤をしていくことが成功につながるんだと実感しました。

―アグリプレナーのみなさんは、これからの農業の未来はどのようになっていくとお考えでしょうか。

藤本:米国では環境への負荷に配慮したグリーンビルディングが着目されていて、LEED という認証システムがすでに存在します。実際にニューヨークで建設中のスーパーマーケットでは、ソーラーパネルとスーパーから出た食品残渣のバイオマスから発電を行い、屋上にあるグリーンハウスで野菜を生産する。そして、収穫後すぐに店舗で販売するというサステイナブルなモデルが出現しています。法規制の問題もありますが、日本でもビジネスとして注目を集めるのではないかと考えています。

:環境問題や世界的な人口増加を背景に、誰もが食料生産に参入する時代がやってきます。今、農業といえば閉鎖的なイメージが強いですが、「有機農業なのか、それとも植物工場なのか」といった垣根を気にしない自由な発想をもった人がたくさん起農することで、そんな空気は打破できます。そして将来的には、農業は畑でやるものという概念から、職場で、学校で、というようにどこでも誰もがやるものに変わっていきます。僕たちの後に続くアグリプレナーが続々と誕生することを期待しています。
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▲トークイベント終了後には、おいしい有機栽培のキャベツと植物工場のレタスの試食会、さらには有機野菜の即売会も行われた。

高齢化による担い手不足やTPP 問題……。最近では日本の農業についてネガティブなニュースが飛び込んでくることが多い。そんな中、山木氏の言葉が強く印象に残った。「私の仲間の若い農家はみんな目を輝かせて現場に立っています。これからの状況は片手間で農業をしているような方々には厳しいものになりますが、逆に僕らにとってはチャンスです。任せてくださいと言いたい」。4 人のアグリプレナーたちのように、未知の事象に対し勇気をもって飛び込んでいく、そんな人々が増えていくことで日本、そして世界の食の未来が切り開かれていくのだろう。