育種技術と人材育成でアフガニスタンの食糧生産基盤を再建する 坂智広
アフガニスタンは世界有数の農業国であったが20余年にわたる戦乱で農地は荒れ果て、知識の継承もないまま、かつては100%自給できていた主食のコムギをはじめ自国の食糧生産基盤は崩壊した。持続的なコムギ生産と自給率向上のための遺伝資源、育種技術が失われ、人材も不足している。横浜市立大学木原生物学研究所の坂智広教授は、日本の科学技術を活かした国際共同研究により、コムギ生産基盤の再建に挑戦している。
農業復興のカギは日本にあった
現在、アフガニスタンのコムギの収量は、1ヘクタールあたり2トン程度と低く、復興のため国民を養うには自給率を4トン/ヘクタールに倍増する必要がある。安定しない社会経済状況に加えて耕地の75%以上は灌漑設備も整わず、近代多収品種でも水不足の年には、見込み量の2割程度しか収穫できない。そこで坂教授は、現地の栽培条件に適した在来種のコムギに着目した。戦乱でその多くが失われていたが、故木原均博士らが1955年の総合学術調査探検隊で収集した500系統を超える在来種・近縁野生種の遺伝資源が研究所に保全されていたのだ。
在来コムギの復活で自給率向上に挑む
現地では2010年にコムギ栽培試験に向けた研究体制づくりがスタートした。同時に日本では在来種の栽培を行い384系統の種子の収穫に成功した。それを里帰りさせ、栽培試験を実施している。現在までに厳しい栽培条件でも安定した収量を得られる在来品種が見つかっており、これをもとに不良環境に適応性の高い遺伝資源の研究が進められている。今後この研究成果を活用しアフガニスタンで目標の増産を達成するためには、現地の農家に品種の重要性と栽培方法を指導できる人材と情報のネットワークをどのように育てるかが課題となる。
農業技術者の育成こそが国の復興へとつながる
そこで現在、坂研究室ではアフガニスタンの若手研究者が大学院修士課程で日本人の学生とともに学んでいる。また、日本以外にもメキシコの国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)、トルコの国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)と国際研究ネットワークを構築し、第三国での在来種の環境評価試験と現地研修を行う体制が整っている。このように多様な経験を積んでいく“シャトル・エデュケーション”により、次世代の人材育成を進めている。アフガニスタンは人口の70%が農業従事者で占められている。食糧生産基盤の再構築と、そのための人材育成を行う本プロジェクトが、彼らの生活を支え、国の復興につながって欲しいと坂教授は語る。
SATREPS課題名
「持続的食糧生産のためのコムギ育種素材開発」