~研究開発を加速させ、産学連携を成功に導くために~ 外部資金活用のススメ
第2回産学連携加速のポイント
新規産業の創出においては、実際に社会実装を担う企業等産業界と、新しい分野の研究開発を支援する大学や研究機関等学術界の連携が不可欠です。そのような活動を補助する外部資金の活用においては、研究開発テーマやその実施計画だけではなく、実施体制の構築も非常に重要な要素です。第2回では、産学連携の体制構築に重要なポイントについてご紹介いたします。
先生方も是非、情報発信を!
最も一般的な産学連携のかたちはやはり共同研究です。平成23年度においては、大学や高専等と民間企業との共同研究は16,302件が報告(※)されており、その件数は年々増加しています。また、民間企業からの受託研究や企業の研究者を研修生などの形で受け入れるなどさまざまな産学連携のスタイルがあるのはご存知のとおりです。
従来は研究室の先輩後輩といった関係や既存の人脈から発展することが多かったのですが、最近は各大学に設置されている産学連携関連部署もその窓口になっています。また、企業は研究室のホームページなどからも積極的に情報を集めています。ただ、そこでよく聞かれるのは、情報が乏しいという声。発表された論文リストなどの業績だけでなく、産学連携の実績や研究への想い、研究室の体制や雰囲気なども発信されていると、連携のイメージが湧きやすくなります。一方で、大学から見れば、やはり企業側の情報はわかりにくいものです。最終的には人と人のお付き合い。相互の情報発信が産学連携を広げる助けになります。
お互いの立場を知ることが、連携の第一歩
産業界と学術界では、それぞれの立場やめざすところは異なりますので、もちろん産学連携に求める内容も異なります。大学の先生方は、アイデアを実現する研究環境、つまり研究費や設備費、ポスドクや研究補助員等の人件費を求めていることが多いと思います。また、学会や卒業論文・修士論文の時期は研究に集中しにくいといった事情もあります。成果も論文や学会発表に重きを置いているでしょう。一方、企業は、大学との連携で技術実用化の可能性や知財化といった面で研究者のもつ知恵や研究推進力を求めています。相手が求めていることをお互いがしっかりと理解し合うことは、円滑な産学連携の体制作りには本当に重要です。そのうえで初めて、連携体でめざす目標やスケジュール、役割分担などの体制づくり、成果の活用方針を決めることができるのです。まずは情報発信と相互理解を進め、お互いの目指すポイントをはっきりさせたうえ連携の機会を増やすことが、外部資金の活用メリットを最大限に引き出す第一歩になるでしょう。
※産学官連携データ集 2012 ~ 2013 独立行政法人科学技術振興機構
産学連携のメリット
大学側
・外部資金の獲得
・学生らがビジネスに触れる教育上の効果
・学生らの就職機会
・産業界のニーズを知る機会
・新たな研究テーマに発展する可能性
・大学の知恵や研究成果を社会還元する機会
企業側
・大学の知恵や研究開発力
・研究機器設備の利用
・信頼性の確保(性能や効能の実証)
・大学のブランド力の活用
・自社の信用力や認知度の向上
・優秀な人材の獲得機会
・研究者ら有識者とのネットワーク
ホンネノトコロ:産学連携に数多く関わった経験をもつ研究開発型企業の研究者 Tさん
自らも研究者として研究開発に従事し、数千万円から数十万円と幅広くかつ数多くの外部資金を活用した事業に関わってきたTさん。外部との連携事業は、得られる資金以外にも得られるものが多いという。オイシイ話ばかりではない側面も含めてお話を伺った。
補助事業というと書類など本質の研究以外の部分にもかなりの時間がとられますよね。もっと予算の使い勝手が良くなるといいなと思うところもあります。そのあたりは正直閉口という部分ですが、それでも外部資金獲得に向けて申請書を書いて、いつも締め切りのギリギリまで頑張って何とか提出する。やはり得られるものがなければ毎回それなりに大変な思いをして活用しないですよね。私たちの会社は、研究シーズや研究者との連携もコーディネートしたりもするのですが、本当にやりたい研究があって、でも資金がないところにおいては、企業であれ研究室であれ、その外部資金の獲得は本当にありがたいものだと思います。また、補助で得られる資金以外にも、事業の採択を受けているということで借入がしやすかったり、金利が優遇されたり、中小企業にとってはそういった部分もメリットといえるかと思います。
外部資金の活用では、得られる補助金以外にも、普段では関わることができない人や技術、情報に触れる機会としても大きな意味があると思います。特に、産学連携は外部資金の事業申請がフックとなってその体制が組めることも珍しくないです。そういったものは申請が不採択になったとしても財産として残りますし、そこから派生して新たな事業が生まれることも少なくないですね。また、申請書を書くということ自体が、事業計画について考える機会になりますし、いろいろな意味で良いきっかけといえるのではないでしょうか。審査のプレゼンも、仮に結果が不採択であったとしても、第三者の意見を得られる貴重な機会と捉えています。外部資金の活用においては、資金の活用だけでなく、その機会を上手く活用できるものだと思います。
最後に、良く聞かれる成果についてですが、上手くいったと思える事業は正直多くはないです。最終目標がしっかりとある事業でなければ、途中でその目的を見失い、資金をもらうだけの事業になりがちです。事業の成功をどう定義するかによりますが、補助事業の期間を無事に計画どおりに終了することが成果ではなく、さらに次のステージに自己資本も投入して成長し続けてこそ成功事業といえるのではないでしょうか。
知財ファイル LED人工太陽光光源システム
光合成や概日リズムの形成など、光が生命現象に及ぼす影響については、さまざまな角度から研究が行われています。最近では、その成果を応用した作物生産技術などへの応用も注目を集めています。その一方で、自然環境下で観測される太陽光の分光分布(スペクトル)や光環境を高い精度で再現することは技術的に困難でした。
東京大学の富士原和宏教授のグループは、搭載された32種類のLEDを個別に制御することで、可視光から近赤外光の一部を含む波長範囲について、希望する分光分布の光を容易に作出することができ、さらに、それを動的に変化させることができるシステムを開発いたしました。本システムは農学分野のみならず、医学など厳密な光環境の制御を必要とする幅広い分野での応用が見込まれます。
■発明の概要
・分光分布の数値データを入力することで、あらゆる分光分布の光を短時間で作出できる
・作出した光の分光分布のデータを保存することで、いつでも同じ分光分布の光を再現できる
・複数の分光分布の光を連続して出力することで、光環境を動的に制御することができる
■発明の効果
本システムでは、32種類のLEDの出力を個別に制御することで、地表面における太陽光の分光分布に近似した光だけでなく、生物の光応答研究で必要とされるであろうほとんどの分光分布の光を作出し、また再現することが可能である。しかも複数の分光分布の光の作出データを保存しておけば、それらの光を照射する順番や時間(長さ)を自由かつ簡便に設定して、動的な光環境制御を実現することができる。
■想定される用途
・生物の光応答研究用としての光源装置
・医療用の光環境制御用あるいは視覚の光応答研究用としての光源装置
・製品・美術品の多様な光環境下での色彩検査・評価用としての光源装置
〔本特許に関するお問合わせ先〕
株式会社東京大学TLO(CASTI)
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1産学連携プラザ3階
担当:岩倉綾子 e-mail:[email protected]
電話:03-5805-7707(直)