【大学教育最前線】「臨床試験」 それは医師が「人」の体の仕組みに挑む研究活動(千葉大学)

【大学教育最前線】「臨床試験」 それは医師が「人」の体の仕組みに挑む研究活動(千葉大学)

医師が伝える、臨床試験体験プログラム

「臨床試験」それは医師が「人」の体の仕組みに挑む研究活動

千葉大学医学部附属病院臨床試験部

新しい治療法や薬の開発の際に欠かせない臨床試験は、動物実験では知りえない「人」への「有効性」と「安全性」について科学的に評価するものです。誰もが人生の中で関わりを持つ医療ですが、その進歩がどのように支えられているか、知る機会はほとんどありません。千葉大学医学部附属病院臨床試験部は、理科の授業の中で学ぶ、中学生向けプログラムを開発し、千葉県立千葉中学校で実施しました。臨床試験に携わる3名の視点と共にプログラムの内容を紹介します。

体の仕組みを知り、試験を設計する(花岡 英紀 先生)

本プログラムは「体の仕組み」を学ぶことから始まった。薬は飲んでもすぐに効くわけではない。腸などから吸収され、血管を通って体内に分布する。その後、肝臓や腎臓の働きにより、薬の成分は代謝され、体外に排出される。この「吸収、分布、代謝、排出」の流れは、薬の作用を考えるうえで欠かせないポイントだ。肝臓の酵素を使った実験やアルコール代謝の個人差の調査といった体験を通じ、生徒は「薬によって代謝のされ方も違うし、人によってもその能力が異なる」ことに気がつく。「体の中で起こっていることをよく知らなければ、安全性や有効性を評価するためにはどんな試験が必要かを考えることはできません。だから私たち医師も勉強を続ける必要があります」と花岡先生は言う。

データをいかに客観的に評価できるか(関本 先生)

2日目、生徒は被験者役と検査員役に分かれ「カフェインの集中力を高める効果」を検証する臨床試験を体験した。ここでは、試験結果を正しく評価することの重要性を学ぶ。被験者役の生徒はカフェイン濃度が「濃い」「中程度」「なし」の3群に分かれて、コーヒーを飲む。直後から、単純計算を繰り返し、そのスコアの変化から集中力の変化を評価した。コーヒーを摂取後、何分後から効き始めたのか、被験者の身長・体重・血液量を考慮すべきではないか、試験環境は適切だったか、など実に多様な視点から考察が行われた。「試験をする側は『効くのではないか』という思い込みを排除し、試験の結果を公平に判断することが大切です。試験の設計や評価の難しさと重要性を実感できた体験だったのではないでしょうか」と関本先生は話す。

 

「人」で試験するということを考える(川瀬 貴之 先生) 

臨床試験をテーマとする本プログラムでは、一つ大きな特徴がある。それは「被験者役」がいる実験教室であるということだ。カフェインの体験の際には、検査員役は被験者役にしっかりとインフォームドコンセントを取った。倫理面から臨床試験に携わる川瀬先生は言う。「被験者がいて、初めて臨床試験が成り立つものだということを実感してほしいです。知りたいからといってどんな実験をしてもいいというわけではありません。それを考えることも試験をするうえで重要な視点なのです」。

今回のプログラムは体験を通じて臨床試験の重要性を伝えるものでしたが、試験の設計や評価法の検討などは科学研究一般に通じるものです。生徒が知らず知らずのうちに科学的な視点を育まれる、科学教育という視点でもとても効果的なプログラムだったのではないでしょうか。

■生徒の声

・人の心理や環境に影響されず、できるだけ正確な結果を出すのは難しいことだと知った。

・生物や科学について深く理解することができ、興味もわきました。

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千葉大学医学部附属病院臨床試験部HPはこちら→ http://www.chiba-crc.jp/