日本が誇るトイレ技術は、まだ進化する 所 晃史

日本が誇るトイレ技術は、まだ進化する 所 晃史

以前紹介した東京理科大学の小林宏教授が開発したマッスルスーツ®は、2014年11月、本格的に市場に導入され多くの期待を集めている。「本当に使える製品になるものづくり」を考える小林研究室では、その他にも介護福祉などの現場で使える様々な製品開発のための研究が行われており、所晃史助教が中心となって進める新型トイレシステムもその一つである。

始まりは宇宙空間 〜宇宙でも出るものは出る〜

 所さんは学部生時代、無重力環境での排泄環境整備についてのプロジェクトに関わることになり、宇宙実験用に人間の腸に近い機構を持つ擬似排泄ロボットをつくった。そして、擬似排泄ロボットを用いた実験を通じて、排泄物を飛散させることなく回収するための簡易トイレを考案した。現状、宇宙のトイレは直径10cm程度の穴を狙って排泄する訓練が必要なものであるが、所さんらが考案したものは排泄物回収機構自体を臀部に密着させるというものであった。

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いかに臀部を捉えるか 〜やはり、出るものは出る〜

このシステムが、介護問題と出会った。「排泄介護」は、介護者、被介護者ともに、精神的、身体的に負担がある。また、ベッドに寝た状態での排泄支援は、被介護者の自立を妨げる要因ともなり、自身で便座に座り、排泄を行えることが理想と考えた。そこで、同研究室の「自立サポートシステム」と宇宙実験用を介護に適応した臀部密着型トイレシステムの連携をはかった。

 この新型トイレシステムで重要になるのは、如何にして臀部に正しく密着させるかである。被験者の肛門の位置を正しく判断することが必要となるが、所さんらが着目したのは人体の体内温度と表面温度の差である。直腸につながる肛門は体内温度に近く、そのまわりの臀部表面より温度が高い。そこで、下方向より赤外線カメラを用いて、20cm四方程度(47×48pixel)の温度分布を獲得し、7×7pixelエリア毎での平均値を計算、最高値を取るエリアの中心を肛門の位置として特定した。その後、便座自体を前後に移動させ調節するのである。

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密着、そして洗浄 〜出たあとは、きれいに〜

tokoro4 新型トイレシステムは、臭気のモレを防ぐ密着部、熱圧着部に加え、肛門周りの清潔を保つための清拭機構部と泡出し機構部で構成される。清拭機構部は、その先端が直径10cm程度の回転体になっており、泡出し機構部で生成した泡を吐出す部分とトイレットペーパーが巻き付いている部分に分かれている。赤外線カメラで捉えた肛門の位置に、回転体が適切に位置され、肛門に泡を付着、清拭機構部自体を上下に動かすと同時に回転体を回転させることで、未使用のトイレットペーパーを順に肛門周りに押し当てる機構となっている。こうして被介護者、介護者双方が排泄後に手を使って洗浄するという負担の軽減につながるという。

新型トイレシステムは、被介護者の臀部の形の違いへの対応や施設外で使えるポータブルタイプなど、今後も課題はある。一方で、排泄物から被介護者の健康状態の一部を測ることも可能なことを考えると、医療・介護現場での利活用への期待は大きいものであろう。(吉田 一寛)