労働をアシストする「マッスルスーツ」 小林 宏

労働をアシストする「マッスルスーツ」 小林 宏

東京理科大学工学部第一部機械工学科小林宏教授

近年、福祉介護用ロボットが数多く開発される中で、労働補助という切り口で研究開発を進める東京理科大学の小林先生。まだまだ研究開発段階のロボットが多い中、先生が開発した腰補助用のアシストスーツはすでに複数企業での導入も決まり、実用化はもう目の前だ。

福祉ではなく労働補助

厚生労働省の統計によると、4日以上の休業を要する腰痛は2011年に4,822件発生している。これは職業性疾病のうち6割を占める労働災害だ。業種別では社会福祉施設が約25%程度を占め、他の業種では運輸交通業、小売業が多い(1)(2)。さらに近年、電子商品取引市場が急拡大し、1998年では約650億円程度だった市場規模は,2010年には約130倍の8兆4,590億円となっている(3)。このような状況の中で、物流業においては、商品サイクルが早く多種にわたるため物流の機械化ができず、作業者の負担は増大している。物流業においては、作業効率とコストが直結するため、福祉分野以上に問題意識が強い。2001年、小林先生が初めて身体機能拡張を目的としたロボットを開発した際、問い合わせをしてきたのは物流を担う企業からだった。

(1)厚生労働省,“平成21年度国民医療費の概況”,厚生労働省大臣官房統計情報部,
(2)厚生労働省,“平成20年患者調査の概況“,厚生労働省大臣官房統計情報部,
(3)経済産業省,“平成23年度我が国情報経済社会における基盤整備 (電子商品取引に関する市場調査)”,経済産業省商務情報政策局,

人工筋肉を使用した動作補助ウェア

小林先生が開発した 「マッスルスーツ」

小林先生が開発した 「マッスルスーツ」

マッスルスーツは着用型の筋力補助装置だ。日常生活での利用を考え、柔軟、軽量という特性を持つ人工筋肉をアクチュエータとして採用し、簡単に脱着できる構造となっている。特徴は、アクチュエータとして空気圧式のMcKibben型人工筋肉を採用していること、上半身の補助を対象としていること、そして着用者がマッスルスーツの動きに合わせて動くことにより筋力補助効果を高めているという3点だ。人工筋肉で肩や肘、腰の関節を補助することで、重量物を積み下ろしする際の負担を軽減する。

実証に勝るデータなし

「マッスルスーツは形状、機能、1つ1つがすべてノウハウなんです。例えば、腿につけるパット1つとっても、フレームとの接合部分を真ん中より外側に配置していたり、パットの角に丸みを持たせているのは、実際の使用感からフィードバックを得て改良した成果なんです」と小林先生は語る。マッスルスーツの部品数は300程度。それに対して100くらいの改良が加えられ、今の製品ができあがっている。「産業用ロボットであれば、コスト、効率、正確さを求めればいい。でも人間が使用するものの場合、個人の感覚的な部分を考慮しなければいけない。だからいろいろな人に試してもらうことが重要なんです」。マッスルスーツは来年秋ごろより販売を開始する予定。研究段階からユーザー目線での開発を行うこのスタイルが、いち早く実用化への道を拓くのだ。